シャッラの聖母

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ作『シャッラの聖母』

『シャッラの聖母』は、ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1540年頃に制作したとされる油彩画です。この作品は、聖母マリアが幼子イエスを抱く姿を描いたもので、現存するティツィアーノの作品の中でも最小サイズであることが特徴です。その通称は、かつてローマのシャッラ＝コロンナ・コレクションに所蔵されていたことに由来します。

現在、この作品はティッセン＝ボルネミッサ美術館からの寄託により、バルセロナのカタルーニャ国立美術館に所蔵されています。

作品の詳細

絵画には、緑のカーテンで覆われた室内で、幼子イエスを抱きかかえる聖母マリアが描かれています。マリアは愛情深くイエスを抱きしめ、穏やかな視線を鑑賞者に向けています。彼女は赤いチュニックをまとい、座っている椅子は青いマントで覆われています。

ティツィアーノの描写はシンプルでありながらも、特にその色彩の使い方が印象的です。カーテンの濃い緑色は、椅子のマントの青色と対照をなし、さらにそれらが聖母のチュニックの赤色と鮮やかなコントラストを生み出しています。この色彩の対比が、作品に深みと立体感を与えています。

また、聖母が足を乗せる台座の側面には、ティツィアーノの署名が記されています。聖母のポーズは、バース侯爵家のコレクションにある『エジプトへの逃避途上の休息』との関連性を示唆しており、幼子イエスのポーズは、アルテ・ピナコテーク所蔵の『夕景の中の聖母子』との類似性が指摘されています。

作品の帰属について

19世紀には、美術評論家のジョヴァンニ・バティスタ・カヴァルカゼルと美術史家のジョゼフ・アーチャー・クロウがローマでこの作品を目にし、1877年にティツィアーノの作品であると発表しましたが、多くの研究者から疑問が呈されました。

その後、1956年に絵画が売却された際、ウィリアム・ズイダによって再びティツィアーノの作品であると主張され、ロベルト・ロンギ、フィリップ・ヘンディ、ロドルフォ・パッルッキーニといった研究者たちがこの説を支持しました。しかし、バーナード・ベレンソンは1957年のティツィアーノ作品リストに本作品を含めておらず、フィリッポ・ペドロッコは2001年のティツィアーノ全集から本作品を省略しています。

また、フリッツ・ハイネマンは1980年に、作品の作風が素朴であることから、ティツィアーノの息子であるオラツィオ・ヴェチェッリオの作品であるという説を唱えました。

制作年代については、ウィリアム・ズイダは1520年から1530年頃、フィリップ・ヘンディは1540年頃と推測しており、ハロルド・エドウィン・ウェゼイはそれよりも早い1515年頃としています。このように、作品の帰属と制作年代については、現在でも様々な見解が存在しています。

作品の来歴

この作品は、19世紀にローマのシャッラ＝コロンナ・コレクションによって所蔵されていたことが知られています。1874年には、第7代カウパー伯爵フランシス・クーパーによって購入されました。

その後、カウパー伯爵家のコレクションとして、ハートフォードシャー州のカントリーハウス、パンシャンジャーに所蔵されました。その間、1881年のロイヤル・アカデミー冬季展示会や、1894年から1895年にかけて開催されたヴェネツィア絵画展にも出品されています。

1953年10月16日、カウパー・コレクションがクリスティーズで競売にかけられた際、この作品はロンドンの美術商アグニューズに購入され、その後、1956年にティッセン＝ボルネミッサ美術館の創設者であるハンス・ハインリヒ・ティッセン＝ボルネミッサ男爵の手に渡りました。そして、2004年からは、バルセロナのカタルーニャ国立美術館に貸与されています。

後世への影響

ルネサンス期の木版画家ニッコロ・ボルドリーニは、この作品の構図を基にして木版画『ヴィーナスとキューピッド』を制作しています。このことから、『シャッラの聖母』が後世の芸術家たちにも影響を与えたことがわかります。

外部リンク

ティッセン＝ボルネミッサ美術館公式サイト - ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『聖母子』
カタルーニャ国立美術館公式サイト - ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『聖母子』

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