シャトーゲーの戦い

シャトーゲーの戦い：米英戦争におけるカナダの勝利

シャトーゲーの戦いは、1813年10月26日に現在のカナダ、ケベック州オームズタウン近郊で繰り広げられた米英戦争中の戦闘です。この戦いで、アメリカ軍はモントリオール占領を狙いましたが、カナダ民兵とモホーク族インディアンの連合軍によって撃退されました。数的に劣勢だったカナダ軍が、アメリカ軍の侵攻を食い止めたこの戦いは、カナダの歴史において重要な出来事として語り継がれています。

アメリカ軍の作戦

アメリカ軍は、ジョン・アームストロング陸軍長官の指揮のもと、モントリオールを占領し、アッパーカナダ全体を制圧する作戦を立案しました。この作戦では、ニューヨーク州サケット港から出発する部隊と、シャンプレーン湖のプラッツバーグから進軍する部隊がモントリオールで合流し、攻撃を仕掛ける予定でした。

シャンプレーン湖のアメリカ軍は、ウェイド・ハンプトン少将が指揮を執りました。しかし、ハンプトンは作戦にいくつかの懸念を抱えていました。ハンプトン軍は訓練不足であり、士官たちの経験も浅かったのです。また、イギリス海軍が湖を支配していたため、前進基地であるプラッツバーグへの物資補給も困難でした。さらに、ハンプトンはサケット港から部隊を率いるジェームズ・ウィルキンソン将軍を軽蔑しており、当初は共同作戦を拒否していました。しかし、アームストロングが作戦を指揮すると約束したため、最終的には連合遠征隊への参加を承諾しました。

ハンプトン軍は9月19日にプラッツバーグへ移動し、オーデルタウン方面への偵察を開始しました。イギリス軍の戦力を警戒したハンプトンは、西のシャトーゲー川沿いのフォー・コーナーズへ進むことにしました。ウィルキンソン軍の準備が遅れていたため、ハンプトン軍は10月18日までそこで待機しました。ハンプトンは、遅延による物資の不足と、イギリス軍が戦力を集める時間を与えることを懸念していました。アームストロングからの「概ね」準備ができたという連絡を受け、ハンプトン軍はシャトーゲー川を下り始めました。しかし、1,400名のニューヨーク州民兵が国境を越えることを拒否したため、正規兵2個旅団、200名の騎兵、10門の野砲のみで進軍することとなりました。

カナダ軍の反攻

9月17日にモントリオール方面軍の指揮官に任命されたルイ・ド・ワッテビル少将は、アメリカ軍の侵攻の情報を受け、民兵部隊の結成を命じました。前哨基地の指揮官であるチャールズ・ド・サラベリー中佐は、既に防衛部隊の組織化を開始していました。地域の農民を情報源としていたド・サラベリーは、ハンプトン軍の勢力や動きを正確に把握していましたが、ハンプトンはド・サラベリー軍に関する情報をほとんど持っていませんでした。

ド・サラベリー軍はカナダ人志願兵を中心に編成され、選抜民兵大隊も組織されました。ド・サラベリーは、シャトーゲー川が大きく屈曲する場所に、倒木を利用した障害物（逆茂木）を設置させました。その背後にカナダ・フェンシブルの軽装中隊、志願兵2個中隊、ボーハーノワの精鋭民兵中隊、そしてモホーク族インディアンを配置しました。逆茂木の背後1.6kmの浅瀬には、選抜民兵の軽装中隊と民兵中隊を配置し、さらに川沿いの2.4kmには、志願兵3個中隊、第2選抜民兵大隊、そして150名のインディアンを配置し、ジョージ・マクドネル中佐が指揮を執りました。

勝利を確信していたド・サラベリーは、上官に行動の詳細を伝えていませんでした。ド・ワッテビルは戦闘が開始された後に前線に到着しましたが、ド・サラベリーの配置を「承認」しました。

戦闘の勃発

ハンプトンは、浅瀬があることを知り、ロバート・パーディ大佐に1,000名の部隊を率いさせ、シャトーゲー川の南岸からイギリス軍陣地を回り込み、浅瀬を確保して側面を攻撃する作戦を立てました。一方、ジョージ・イザード准将が別の1,000名の部隊を率いて正面から攻撃することにしました。残りの1,000名は、病気であるか、物資や大砲の護衛のために残されました。

パーディ隊が配置についた後、アームストロングからハンプトンに文書が届き、アームストロング自身が連合軍の指揮を執らず、ウィルキンソンに委ねたこと、ハンプトンはセントローレンス川沿いに10,000名の冬季宿営地を造るべきことが伝えられました。ハンプトンは、この二つ目の指示から年内にモントリオールを攻撃することは不可能だと考え、作戦全体に失望しました。しかし、パーディ隊が孤立するため、すぐに撤退することはできませんでした。

雨の中、糸杉の湿地を夜通し行軍したパーディ隊は、10月26日の朝、ド・サラベリーが浅瀬に配置した部隊と遭遇しました。デイリー大尉が指揮する選抜民兵第3大隊の軽装中隊がアメリカ軍に攻撃を仕掛け、他のカナダ軍部隊も川向こうから攻撃を開始しました。

銃声を聞いたイザード軍は、空き地に布陣しました。伝説によれば、この時アメリカ軍の士官が馬で前に出て、カナダ軍に降伏を要求しましたが、休戦の旗を掲げていなかったため、ド・サラベリー自身がこの士官を撃ち倒したと言われています。

イザード隊は、逆茂木や樹木に向かって射撃を始めましたが、守備側の正確な射撃によってほとんど効果がありませんでした。カナダ軍右翼では、フェンシブルの軽装中隊が側面攻撃を受けて後退しましたが、ド・サラベリーの命令であるか民兵の意思によるかは不明ながら、予備隊が前進を始め、軍隊ラッパを鳴らし、歓声を上げ、インディアンが雄叫びを上げました。アメリカ兵は混乱し、数的に劣勢であると錯覚して後退を始めました。ハンプトンは大砲を使って逆茂木を破壊することもせず、パーディ隊が湿地から解放されると、アメリカ軍は撤退しました。ド・サラベリーは追撃をしませんでした。

戦闘後、カナダ軍の最初の損失報告では戦死者が5名とされていましたが、後に3名がアメリカ軍の捕虜になっていたことが判明しました。一方、アメリカ軍は23名の戦死、33名の負傷、29名の不明を記録しました。ド・サラベリーはアメリカ兵16名を捕虜にしたと報告しましたが、そのうち6名は重傷を負っていました。

戦闘後

ハンプトンはフォー・コーナーズまで撤退し、作戦会議を開きました。その結果、新たな前進は不可能であると判断しました。また、秋の雨で道路が通行不能になりつつあり、物資も不足していたため、ハンプトンはプラッツバーグへの撤退を命じました。そして、参謀士官をウィルキンソンに派遣して状況を報告させました。

ウィルキンソン軍は、オグデンスバーグの上流にあるホーグスまで来ており、ここでこの報告を聞きました。ウィルキンソンはハンプトンに、セントローレンス川のコーンウォールまで進軍するよう命じましたが、ハンプトンはこれを拒否しました。ハンプトンの返事がウィルキンソンに届く前に、ウィルキンソン軍はクライスラー農園の戦いで敗北し、モントリオール攻撃の計画は失敗に終わりました。ハンプトンはすでに辞職願を提出しており、その後戦場に立つことはありませんでした。

一方、イギリス軍はシャトーゲーでの勝利後も陣地を維持していましたが、インディアンからアメリカ軍が撤退したという報告を受け、兵舎に戻ることができました。

ド・サラベリーは、ド・ワッテビル将軍とジョージ・プレボスト総督が戦闘の勝利を二人の手柄にするような報告をしたことに憤慨しました。しかし、ケベック議会から感謝状が贈られたことで、ド・サラベリーの不満はいくらか和らぎました。

シャトーゲーの戦いは、米英戦争におけるカナダの勝利を象徴する戦いです。数的に劣るカナダ軍が、巧みな戦術と地の利を活かし、アメリカ軍の侵攻を阻止しました。この戦いは、カナダの団結力を示すとともに、アメリカ軍の作戦の失敗を浮き彫りにした出来事として、歴史に刻まれています。

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