シャン州東部民族民主同盟軍

民族民主同盟軍（NDAA）

民族民主同盟軍（NDAA）は、ミャンマー東部のシャン州を活動基盤とする武装勢力です。別称「モンラグループ」としても知られており、この名称はNDAAが本部を置くシャン州第4特区に由来しています。この組織は、平和団結委員会（PSC）の軍事部門としての役割を担っています。

組織の成り立ち

NDAAが統治するモンラー地区は、1960年代までは複数の軍閥による支配下にありましたが、その後ビルマ共産党の勢力圏となり、その傘下の815軍区となりました。共産党の崩壊という激動を経て、この地域を基盤とする勢力は民族民主同盟軍（NDAA）を結成しました。組織の兵力は、シャン族とアカ族を中心に約2,500人規模とされ、「ジェームズ・ボンドのような私設警察部隊」と形容されることもあります。NDAAは結成後間もなくミャンマー政府との間で停戦合意を締結。これにより、特区内での広範な活動の自由を認められた結果、モンラー地区（シャン州第4特区）はケシ栽培やアヘン取引が盛んな地域へと変貌しました。

指導者サイ・リン

NDAAの中心的指導者は、サイ・リン氏（中国名：林明賢）でした。彼は1948年に中国の海南島で生まれ、文化大革命期に雲南省へ移住。1967年に母親を中国国民党軍によって殺害された出来事を機に中国共産党へ入党し、紅衛兵として活動しました。その後、実戦経験を積むためビルマ共産党に合流します。当時の同志には張志明氏や、後にワ州連合軍（UWSA）の幹部となる李子如氏がいました。

1973年には、ヤンゴン出身の美しい中国系ミャンマー人女性、タンタンウィン氏と結婚。共に革命への情熱を燃やしていましたが、彼女は1980年にマラリアでこの世を去りました。

1976年の毛沢東死去後、鄧小平氏が実権を握ると、中国からのビルマ共産党への援助は削減され、リン氏のような外国人義勇兵には帰国が促されました。しかし、リン、張、李の三氏は帰国せず、共産党に留まります。これは諜報活動のためであったとの見方もあります。タンタンウィン氏の死後、リン氏は共産党コーカン部隊のリーダーで、後にミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）の指導者となる彭家声氏の娘と再婚し、彭氏とは義理の親子関係となりました。

活動の変遷：麻薬からカジノへ

NDAA結成後、サイ・リン氏は幼馴染の張志明氏と共に活動しました。モンコー近郊にヘロイン精製施設を設け、UWSAやMNDAAがタイや中国を主要な密輸先としたのに対し、リン氏はラオスへのルート開拓に着目します。彼は、ラオスの反政府勢力がミャンマー領内を迂回して移動する際に護衛と案内を提供し、その見返りとして彼らにヘロインをラオスへ運ばせる計画を立てました。しかし、この反政府勢力が逮捕されるなどして計画は失敗に終わりました。次にリン氏はラオス軍の一部を買収し、ラオス経由でカンボジアのリゾート地ココンまでヘロインを輸送することに成功。これにより、ココンは東南アジア有数のヘロイン集積地となりました。

しかし、中国からの強い圧力や国際的なヘロイン市場での競争激化を受け、NDAAはケシ栽培・アヘン生産の取り締まりへと方針転換しました。1992年から1996年にかけて国連薬物犯罪事務所（UNODC）主導の代替開発プロジェクトを実施し、1997年には「アヘンのない地域」宣言を行うと共に、モンラーに麻薬撲滅博物館を建設しています。ただし、専門家の間ではこれに対し懐疑的な見方も存在します。アヘン栽培は抑制されたかもしれないものの、メタンフェタミン製造に関与している疑惑が指摘されており、実際にリン氏の弟がその製造・密売に関わっているとの情報もあります。また、モンラー市内では、希少なスッポン、ミズオオトカゲ、センザンコウ、サル、クマ、トラの毛皮や象牙といった違法取引品を扱う店舗が多数営業している状況も報告されています。

NDAAの最も大きな収入源は、カジノ事業でした。リン氏はヘロイン密売で得た巨額の利益を元に、モンコーに次々と高級ホテル、カジノ、カラオケ、バー、ナイトクラブといった娯楽施設を建設しました。これらの場所では公然と売春が行われ、一時期はロシアやウクライナ出身の売春婦グループが存在したこともあります。2000年代初頭には、毎日推定3,000人もの中国人観光客が国境を越えてバスで訪れるようになり、活況を呈しました。しかし、バカラテーブルで何十億元もの人民元が浪費される状況に対し、中国当局は不快感を募らせます。度重なる警告にも関わらず状況が改善されないため、2005年1月には中国の治安部隊が国境を越えてモンコーのカジノを急襲し、多数の中国人ギャンブラーを一斉に逮捕しました。いくつかのカジノ施設は破壊され、国境は実質的に封鎖され、かつて賑わっていたモンラーは一時ゴーストタウンと化しました。

しかしその後、国境は再開されました。2006年4月下旬、リン氏は中緬国境から約16km離れたモンマに新たなカジノ7軒を建設し、これを皮切りにこの地で次々とカジノの建設を進め、最終的には50軒以上となりました。また、ナムルエ川とメコン川の合流地点にあるソップ・ルエという町にもギャンブルタウンを建設し、これらの施設はいずれもオンライン・カジノに対応しました。ギャンブラーたちは検問所を避けるため、不法な手段で国境を越えてこれらの町へ流入したとされます。この再開の背景には、中緬国境の中国側当局者への買収があったとの見方もあり、公式な捜査のメスが入ることはありませんでした。さらに、かつて中国とラオスの国境近くにあったラオス北西部のボーテン・ゴールデン・シティにもリン氏は投資しており、モンマ近くのカジノでは中国人やラオス人の若者がディーラーとしての訓練を受けていたと報じられています。

合法的とされるビジネスとしては、シュエ・リン・スター・カンパニーという複合企業がサイ・リン氏の所有とされています。

他武装勢力との関係

NDAAは、同じく元ビルマ共産党系のミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）やワ州連合軍（UWSA）と現在も緊密な関係を維持しています。2009年に義理の父である彭家声氏がMNDAA内の権力闘争に敗れコーカンを追われた際には、リン氏が彼を匿ったとも言われています。また、NDAAの兵力を補強するため、UWSAの部隊がNDAAの支配地域内の各所に展開しています。2009年に政府が少数民族武装勢力に国境警備隊（BGF）への編入を迫った際、UWSAはNDAAに対し「BGF案に関して軍事政権と交渉や妥協をしないように」と要請したと伝えられています。その際、NDAAは政府と停戦合意を再び締結しましたが、これはUWSAが同様の合意を結び直した翌日のことでした。一方で、2016年にNDAAが全国停戦合意に署名するという噂が流れた際には、UWSAがNDAAの支配地域の一部を占領する事態が発生しました。NDAAの支配地域は、ラオスとの国境をなすメコン川に面しており、中国からUWSAへの兵器供給がラオス経由で行われるため、UWSAにとって戦略的に極めて重要な土地でもあります。

サイ・リンの死去

長年NDAAを率いたサイ・リン氏は、2024年8月7日に中国国内の病院で肺がんのため逝去しました。享年76歳。彼の死後、息子のテイン・リン氏が組織の後継者となる見込みと伝えられています。

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