シャーンタラクシタ

シャーンタラクシタ（Śāntarakṣita、寂護）は、8世紀にナーランダ大僧院に所属したインドの仏教僧であり、チベット仏教の確立に重要な役割を果たしました。

生涯

ザホル国の王子として生まれたシャーンタラクシタは、幼い頃から仏教に親しみ、ジュニャーナガルバのもとで出家しました。彼はナーランダ僧院で仏教哲学を深く学び、特に中観派の思想に精通するようになりました。

761年、チベットのティソン・デツェン王は仏教を本格的に導入するため、シャーンタラクシタをチベットに招聘しました。しかし、当初はチベットの土着信仰であるポン教徒の強い抵抗に遭い、彼は一時的にネパールへ退避せざるを得ませんでした。その後、771年頃に再びチベットへ入り、パドマサンバヴァ（蓮華生大師）と協力して、775年にチベット最初の仏教寺院であるサムイェー寺の定礎を築きました。

779年に本堂が完成すると、シャーンタラクシタはインドのナーランダ僧院から説一切有部の僧侶を招き、チベット人6人に戒律を授けて最初のサンガ（僧伽）を創設しました。これはチベット仏教の基礎を築く上で非常に重要な出来事でした。また、彼は訳経事業のためにサンスクリット語を教え始め、多くの経典がチベット語に翻訳されるきっかけを作りました。787年にはサムイェー寺の落慶法要を執り行い、その後のサムイェー寺の宗論を予言して没しました。

思想

シャーンタラクシタは、龍樹によって確立された中観派の中でも、唯識派の立場に近い自立論証派（スヴァータントリカ派）に分類されます。彼は中観派と唯識派の調和を図る独自の思想を展開し、その見解は主著である『中観荘厳論』にまとめられています。また、『真理綱要』には、彼の広範な学識が示されています。

著作

『中観荘厳論』(Madhyamakālaṃkāra)
『真理綱要』(Tattvasaṅgraha)
『二諦分別論細疏』(Satyadvayavibhaṅgapañjikā)

シャーンタラクシタは、チベット仏教の黎明期において、仏教思想の確立と僧伽の創設に尽力し、パドマサンバヴァと並び、チベット仏教の事実上の始祖として広く尊敬されています。

関連項目

中観派
チベット仏教
サムイェー寺

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