シュトゥットガルト・シュタットバーン

シュトゥットガルト・シュタットバーン（ドイツ語: Stadtbahn Stuttgart）は、ドイツの大都市シュトゥットガルトにおいて、シュトゥットガルト路面電車会社（Stuttgarter Straßenbahnen A.G.、略称SSB）が運営する高規格軌道（シュタットバーン）路線網です。従来の路面電車システムを発展させたもので、地下区間を含む大規模なネットワークを構築しており、市内外の重要な公共交通機関としての役割を担っています。

歴史

黎明期から電化へ

シュトゥットガルトにおける軌道系公共交通の歴史は、1868年に建築業者のゲオルグ・シュトレがパリ視察で得た着想を基に開通させた馬車鉄道に始まります。当初2.8kmだった路線は翌年には5.8kmに延伸され、その利便性から郊外への拡大も期待されました。しかし、起伏が多いシュトゥットガルトの地形や大型客車に対し馬の牽引力が不足し、道路通行料も負担となるなど、経済的な制約から延伸は困難でした。

転機となったのは、1886年に実業家エルンスト・リプテンが設立した新たな馬車鉄道会社です。リプテンの会社は、急カーブに強く小型車両で済む軌間1,000mm（メーターゲージ）を採用し、市の東部に路線網を広げました。このメーターゲージは、後の電化以降も長きにわたりシュトゥットガルトの路面電車の標準となります。1889年、これら二つの馬車鉄道会社が合併し、現在のシュトゥットガルト路面電車会社の礎が築かれました。

合併後、輸送力強化のため電化への移行計画が進められ、1892年には試運転を実施。1895年から本格的な電化工事が始まり、市内を走行していた馬車鉄道は1899年にその役目を終えました。

戦前と戦災

電化後の路面電車は、第一次世界大戦後のハイパーインフレーション期には延伸が限定的でしたが、経済回復後の1924年からは積極的な路線網拡大が図られました。同年以降、新型車両の大量導入も進み、電化初期の車両は1930年代までに置き換えられました。この時期に、上部白、下部黄色、窓下に黒帯という、現在までSSBの交通機関のシンボルカラーとなっている新しい塗装が採用されました。1939年には初の鋼製車両も導入されています。

また、1920年代以降、SSBは他の公共交通事業者との合併を進め、1920年にはフィルダー鉄道を吸収し路面電車網に組み入れました。運営面では、民間の資本に加え、1917年からはシュトゥットガルト市も出資に加わることとなりました。

第二次世界大戦中は、電力制限による運行頻度減少に加え、男性従業員の兵役に伴う人手不足から、退職者や女性が運転士を務める事態となりました。また、他都市への車両供出も行われました。そして、1944年から1945年にかけての大規模な空襲により市内は壊滅的な被害を受け、路面電車も1945年 4月22日に運行を完全に停止し、終戦を迎えました。

戦後復興と地下化の胎動

終戦直後のシュトゥットガルト市内は瓦礫の山と化し、路面電車網も甚大な被害を受けましたが、1940年代後半は路線の復旧が最優先で進められました。急増する利用客に対応するため、被災車両の修理や戦後の配給車両の導入が行われたほか、1947年から1949年にかけては市内の瓦礫輸送のために電気機関車牽引の貨物列車が特別に運行されました。

1950年代には、1920-30年代以来となる大規模な路線拡張が実施され、SSB全体の年間利用客数は1955年には1億9,300万人に達しました。車両面では、長年主力だった2軸車に代わり、1959年からは急カーブ通過に優れた2車体連接車のGT4形が大量導入され、これがシュトゥットガルトの路面電車の顔となります。

一方で、1950年代以降、西ドイツ各地では都市部の道路混雑緩和や輸送力増強を目指し、路面電車の地下化が進められるようになります。シュトゥットガルト市もこの動きに乗り出し、1950年代に路面電車の地下化に関する調査が行われました。これを基に1964年に工事が開始され、1966年にはシャルロッテン広場経由の3号線の一部が初の地下区間として開業しました。以降1980年まで、市中心部の路線の地下化が段階的に実施されます。

シュタットバーンへの進化

開業当初、地下区間は地上のメーターゲージ路線からGT4形がそのまま乗り入れる形態で運用されていましたが、将来的な高規格鉄道への転換を前提に建設が進められていました。当初は本格的な地下鉄への置き換えが検討されていましたが、予算上の理由から1976年に市議会は方針を変更。メーターゲージから標準軌（軌間1,435mm）への改軌、高床式プラットホームの導入、大型新型車両の開発など、路面電車網全体を高規格化する「シュタットバーン化」を決定しました。

そして、先に地下化されていたシャルロッテン広場経由路線の標準軌化工事や、シュトゥットガルトに適した高床・標準軌車両であるDT8形の開発を経て、1985年 9月28日に本格的なシュタットバーンの運行が開始されました。この年、SSBの年間利用者数は前年比6%増の1億3,500万人となり、それまでの減少傾向に歯止めがかかりました。

シュタットバーン化はその後も積極的に進められ、従来のメーターゲージ路線の改軌・転換に加え、キルスブルク方面（1993年）やネリンゲン方面（2000年）といった新線建設、新たなトンネル整備なども行われ、2010年時点で路線全長は123kmに達しました。この過程で、長年シュトゥットガルトの顔であったメーターゲージの路面電車網は、動態保存車両を除き2007年 12月8日をもって営業運転を終了しました。

現在もシュタットバーン網の拡張は続いており、将来的な延伸計画や車両・車庫の増強が予定されています。また、SSBは路線バスや高速バスなど他の交通機関との連携も重視し、持続可能な都市交通ネットワークの整備を進めています。

路線・運賃

路線系統

シュトゥットガルト・シュタットバーンでは、路線延伸や工事に伴うダイヤ改正により系統が再編されることがあります。系統番号には、大部分の路線が道路から分離された専用軌道であることを示す頭文字「U」（ドイツ語でUnabhängig、独立の意味）が付与されています。2024年 10月18日にはU5号線の延伸区間が開業するなど、近年も変化が見られます。動態保存用の系統として23号線も存在します。

運賃制度

シュタットバーンを含むSSBが運営する公共交通機関の運賃は、SSBも加入するシュトゥットガルト運輸・運賃連合（Verkehrs- und Tarifverbund Stuttgart、VVS）が定めるゾーン制に基づいています。シュタットバーンの路線網は、主にシュトゥットガルト中央駅を中心とする「ゾーン1」に位置しますが、U6号線のように「ゾーン2」へ伸びる路線もあります。

VVSでは期間や年齢に応じた様々な乗車券を提供しており、一般的な普通乗車券は1つのゾーン内であれば2.6ユーロ、2つのゾーンを跨ぐ場合は3.1ユーロ（いずれも2020年時点の参考価格）で、1枚につき3時間有効です。スマートフォンアプリ「VVSMobile」で購入する電子乗車券（HandyTicket）では割引が適用されます。その他、短距離乗車券（1.5ユーロ、乗車地点から3駅/停留所まで）、複数人用乗車券、翌日午前7時まで有効な1日乗車券なども利用できます。

車両

現在の主力車両

シュトゥットガルト・シュタットバーンの運行開始以降使用されているのは、2両編成の「DT8形」または「S-DT8形」と呼ばれる電車です。1981年に試作車が登場し、1985年以降、時代に合わせて改良が加えられた量産車が継続的に導入されています。全ての形式はインダストリアルデザイナー、ハーバード・リンディンガーのデザインによるもので、SSBのシンボルカラーである黄色を基調とした塗装を含め、外観イメージの統一が図られています。これらの車両は高床式プラットホームに合わせた床面高さとなっており、段差なくスムーズに乗降できます。

動態保存車両

1959年から長年シュトゥットガルトの路面電車の主力として活躍したメーターゲージ対応の連接車GT4形は、2007年 12月に営業運転を終えましたが、一部車両はシュトゥットガルト路面電車博物館で動態保存されており、メーターゲージ線路が残る保存系統の23号線などで運行されることがあります。GT4形以前の連接車や2軸車の一部も、同様に定期的な動態保存運転が行われています。

将来計画

SSBでは、利便性向上や輸送力強化のためにシュタットバーン網の更なる拡張を含む複数の将来計画を進めており、一部は既に着工しています。

- U5号線の延伸: 2024年 10月にラインフェルデン（Leinfelden）での延伸が実現したU5号線は、早ければ2029年にエヒターディンゲン（Echterdingen）中心部への再延伸が計画されています。これは、かつてシュタットバーン化で廃止された区間が事実上復活する形となります。
- 道路トンネル工事に伴う駅移設: 連邦道路B10号線の混雑緩和に向けたトンネル整備工事に関連し、ローゼンスタイントンネル建設の支障となるウィルヘイマ駅（Wilhelma）やローゼンスタイン公園駅（Rosensteinpark）の移設が予定されています。
- 「シュトゥットガルト21」関連整備: シュトゥットガルト中央駅の再開発を中心とする大規模プロジェクト「シュトゥットガルト21」に伴い、シュタットバーンのシュテートギャラリー駅（Staatsgalerie）も移設され、新しいトンネルと共に2017年から供用が開始されました。一時的に接続が断たれた同駅と中央駅（Hauptbahnhof）間の線路再整備も行われ、2023年以降に運行が再開されています。
- 車両・車庫の増強: 路線網の拡張や必要車両数の増加に対応するため、2018年にはシュタッドラー・レールへ新型車両DT8.15形20両が発注され、2021年から2023年にかけて導入されました。これにより従来の3箇所では手狭となるため、2023年以降に新たな車庫の建設も進められています。

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