シュベツォフ ASh-73

シュベツォフ ASh-73

シュベツォフ ASh-73は、1947年から1957年にかけてソビエト連邦で生産された航空用エンジンです。総生産数は14,310基に達し、Be-6飛行艇やTu-4戦略爆撃機といった大型機に搭載されました。

開発の経緯

ASh-73は、2,000馬力級の空冷式二重星型18気筒エンジンで、9気筒のM-25を複列化することで、出力を向上させたものです。同様のコンセプトに基づく18気筒エンジンは、1930年代後半から試作されてきました。

M-70と呼ばれるエンジンが1938年にテストされましたが、満足のいく結果が得られず不採用となりました。1940年にはM-71が製作されましたが、これも失敗に終わります。1941年に独ソ戦が勃発すると、重要性が低いと判断された18気筒エンジンの開発は一時中断されました。

開発が再開されたのは、不時着したB-29を捕獲した1944年のことでした。まずASh-72と呼ばれるエンジンが製造され、おおむね良好な性能を発揮しましたが、量産には至りませんでした。その後、1945年内に改良型のASh-73が完成し、1946年末までの試験で優れた性能が認められたため、1947年に量産化が決定されました。

ASh-73とR-3350の関係

ライト R-3350 サイクロン18は、アメリカで開発された航空用エンジンで、二重星型18気筒の構成や、出力、寸法など、多くの点がASh-73と類似しています。ASh-73はR-3350のコピーであるとされることもありますが、M-25を元にソ連で独自に開発されたエンジンです。

ただし、ASh-73とR-3350は全く無関係というわけではなく、いずれもライト R-1820 サイクロン9という共通の祖先から派生しています。R-1820をアメリカで複列化したものがR-3350であり、ソ連でライセンス生産されたM-25を複列化したものがASh-73です。そのため、両エンジン間には多くの類似点があり、相互に交換可能な部品も存在しました。

Tu-4爆撃機は、ソ連領内に緊急着陸したB-29爆撃機（R-3350搭載）をリバースエンジニアリングによって模倣した機体ですが、完全なコピーではなく、エンジンにはASh-73が搭載されました。なお、生産途中からASh-73に装備されるようになった排気タービン式過給器は、R-3350に装備されたもののコピーでした。

主要諸元 (シュベツォフ ASh-73TK)

タイプ：空冷二重星型18気筒
動弁系：OHV 2バルブ/気筒 (ナトリウム封入式)
ボア×ストローク：155.5mm×170mm
全長：2.29m
直径：1.37m
排気量：58.113L
乾燥重量：1339kg
圧縮比：6.9
燃料供給方式：キャブレター式（後期は直接噴射式）
使用燃料：92/93オクタンまたは100オクタンガソリン
過給機：2段式（ターボ式+機械式1速）インタークーラー付
減速比：0.375
出力：
キャブレター・92/93オクタン燃料使用時
2,400hp/2,600rpm/1.5気圧ブースト（離昇出力）
2,200hp/2,400rpm (高度8,700m)
2,000hp/2,400rpm (高度9,300m)
燃料直接噴射時
2,720hp（離昇出力）
2,360hp（最大持続）
総生産基数：14,310

搭載機

ソビエト連邦
ツポレフ Tu-4
ベリエフ Be-6

参考文献

Kotelnikov, Vladimir (2005). Russian Piston Aero Engines. Crowood Press Ltd.. pp. p.130-131
Yefim Gordon, Vladimir Rigmant (2002). Tupolev Tu-4, Soviet Superfortress (Red Star, Vol.7). Midland Publishing ISBN 1-85780-142-3. pp. p.22-25, 63-64, 91

関連項目

* 航空用エンジンの一覧

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