シュラクサイ包囲戦 (紀元前214年-紀元前212年)

シュラクサイ包囲戦：天才アルキメデスの悲劇

紀元前214年から紀元前212年にかけて、第二次ポエニ戦争中に繰り広げられたシュラクサイ包囲戦は、古代世界における技術と戦略が激突した象徴的な戦いとして知られています。シチリア島東岸に位置するシュラクサイ（現在のシラクサ）は、かつてマグナ・グラエキアの繁栄を誇るギリシャ植民都市であり、その強固な城壁と天才科学者アルキメデスの存在によって、難攻不落の都市として名を馳せていました。

開戦までの経緯

第一次ポエニ戦争後、ローマはシチリア島を最初の海外領土としましたが、シュラクサイは同盟国として独立を維持し、ヒエロン2世の統治下で繁栄を享受していました。しかし、ヒエロン2世の死後、王位を継いだヒエロニムスが親カルタゴ政策を採ったことで、シュラクサイとローマの関係は悪化の一途を辿ります。ヒエロニムスの暗殺後も、ローマの威圧的な姿勢は変わらず、シュラクサイは戦わざるを得ない状況へと追い込まれていきました。

紀元前214年、ついにローマとシュラクサイは開戦。ローマは第二次ポエニ戦争でカルタゴと激戦を繰り広げていましたが、マルクス・クラウディウス・マルケッルス率いるローマ軍をシチリアに派遣し、陸海からシュラクサイを包囲しました。

要塞都市シュラクサイ

シュラクサイは、過去の包囲戦の経験から、ディオニュシオス1世によって強固な要塞都市として整備されていました。全長27キロメートルに及ぶ城壁は、エピポライ台地を囲み、14の塔が一定間隔で配置されていました。また、アルキメデスは投石機や大型弩弓などの兵器を開発・配置し、都市の防衛力をさらに高めていました。

アルキメデスの驚異的な防衛兵器

包囲戦において、アルキメデスの発明した数々の防衛兵器は、ローマ軍を大いに苦しめました。巨大な投石機は、壁越しに巨石を放り込み、敵艦を破壊。アルキメデスの鉤爪と呼ばれるクレーン状の兵器は、敵艦を吊り上げて転覆させました。さらに、巨大な鏡を並べて太陽光を反射させ、ローマ艦の帆を焼き払ったという伝説も残っています（アルキメデスの熱光線）。

膠着状態と悲劇的な結末

アルキメデスの活躍により、シュラクサイは数ヶ月にわたりローマ軍の攻撃を耐え忍びました。しかし、ローマ軍も容易には撤退せず、戦闘は膠着状態に陥ります。カルタゴによる救援も失敗に終わり、シュラクサイは孤立無援の状態となってしまいました。

紀元前212年、シュラクサイ市民がアルテミス神の祝祭に浮かれている隙を突いて、ローマ軍は外郭の城壁を突破。市内に侵入しました。この時、マルケッルスはアルキメデスを殺さないように命令していましたが、ローマ兵が研究中のアルキメデスに遭遇し、口論の末に殺害してしまいます。78歳という高齢でありながら、祖国のために尽力した天才科学者の悲劇的な最期でした。

シュラクサイの陥落とその後

ローマ軍は外郭を制圧した後も、内郭に立て籠もるシュラクサイ市民の抵抗に遭いましたが、兵糧攻めによって徐々に追い詰めていきました。8ヶ月後、ついにシュラクサイは陥落し、ローマ軍による徹底的な略奪が行われました。多くの市民が殺害され、生き残った人々は奴隷として売られました。

シュラクサイを再び手に入れたローマは、シチリア島全域を属州とし、カルタゴはシチリアにおける拠点を失いました。シュラクサイはその後再建され、ローマにとって軍事的にも経済的にも重要な都市として存続しましたが、かつての輝きを取り戻すことはありませんでした。