シュラクサイ包囲戦 (紀元前397年)

第一次シュラクサイ包囲戦の詳細解説：紀元前397年、シケリアを舞台に繰り広げられた攻防

第一次シュラクサイ包囲戦は、古代シケリア（現在のシチリア島）で発生した一連の戦いの一部であり、特に紀元前397年にカルタゴ軍がシュラクサイを包囲した出来事を指します。この戦いは、シケリアにおけるギリシアとカルタゴの勢力争いを背景に、シュラクサイの僭主ディオニュシオス1世とカルタゴの将軍ヒミルコの間で繰り広げられました。

戦いの背景

カルタゴは、ギリシア軍によるカルタゴ領への攻撃に対する報復として、紀元前406年にシケリアへ遠征軍を派遣しました。当初はハンニバル・マゴが率いるこの軍は、アクラガス包囲戦中にペストで倒れ、彼の甥であるヒミルコが指揮を引き継ぎました。ヒミルコはアクラガス、ゲラ、カマリナを攻略し、シュラクサイに政治的混乱をもたらし、最終的にディオニュシオス1世が権力を掌握するきっかけとなりました。紀元前405年、ヒミルコとディオニュシオスは和平条約を結び、カルタゴはシケリアの大部分を支配下に置きました。

ディオニュシオスは、紀元前405年から紀元前398年にかけて、シュラクサイにおける自身の権力を強化し、軍備を拡張しました。彼は条約を破棄してシケル人との戦争を開始し、ナクソスやカタナを占領し、レオンティノイを従属させることで領土を拡大。さらに傭兵を雇用し、新たな船を建造し、シュラクサイを強固な要塞都市へと変貌させました。紀元前398年、ディオニュシオスはカルタゴ領のモティアを攻撃し、これを占領・破壊しました。

戦力

紀元前397年、ヒミルコは陸兵50,000、三段櫂船400、輸送船600を率いてシケリアに到着。パノルムスで現地の兵30,000が合流しました。カルタゴ軍がシュラクサイに到着した際には、軍船は208隻に減っていましたが、陸軍への補給のため2,000隻の輸送船が用いられました。

一方、ディオニュシオスは歩兵30,000と騎兵3,000を率いてカタナに進軍。海軍は180隻の五段櫂船を有していました。しかし、カタナ沖の海戦での敗北により、軍船は80隻に減少。この損失を補うため、傭兵が雇用され、シュラクサイ市民も兵士として動員されました。

包囲戦の展開

ディオニュシオスがカルタゴ領への攻撃を開始すると、カルタゴの支配下にあったギリシア都市やシカニ都市が反乱を起こしました。カルタゴはヒミルコを派遣してモティアを救援しようとしましたが失敗し、ディオニュシオスはモティアを占領・略奪しました。

カルタゴが陸軍の準備を整えると、ヒミルコは遠征軍を率いてパノルムスに上陸し、エリュクスを奪回。続いてモティアを急襲し、これを陥落させました。その後、セゲスタに向かいましたが、ディオニュシオスはカルタゴ軍との決戦を避け、包囲を解いて撤退しました。カルタゴ軍はメッセネを攻撃し、占領・破壊しました。

ヒミルコはメッセネに基地を置かず、タウロメニオンにシケル人を移住させて都市を要塞化し、北方の押さえとしました。その後、カルタゴ軍は南に向かって進軍を再開しましたが、エトナ山の噴火により、軍を二つに分ける必要が生じました。ヒミルコは陸軍と共にエトナ山を迂回し、艦隊はマゴが率いてカタナに向かい、そこで両軍が合流することとなりました。しかし、ギリシア海軍はカルタゴ海軍に敗北し、多くの軍船と人員を失いました。

ギリシア海軍の敗北後、ディオニュシオスはシュラクサイに撤退し、カルタゴ軍の攻撃に備えました。ヒミルコは陸軍と共にカタナに到着し、カタナで数日間の休息を取った後、シュラクサイに向けて進軍を開始。シュラクサイに到着すると、エピポライ台地の周囲に野営地を築きました。

包囲戦の失敗と終結

包囲戦が開始されましたが、両軍ともに積極的な行動を起こすことはありませんでした。しかし、紀元前396年の夏になると、カルタゴ軍にペストが蔓延し、多くの兵士が病死しました。ディオニュシオスはこの機会に乗じてカルタゴ軍に攻撃を仕掛け、ヒミルコはディオニュシオスとの間で秘密裏に取引を行い、カルタゴ市民だけを連れて脱出しました。残されたリビュア兵は奴隷とされ、イベリア兵はディオニュシオス軍に合流しました。

ヒミルコがカルタゴに帰還すると、彼は敗北の責任を取り、自決しました。その後、カルタゴではペストが流行し、リビュア人が反乱を起こすなど、国力が大きく低下しました。

この包囲戦は、ディオニュシオス1世の権力維持、カルタゴの勢力衰退、そしてシケリアにおけるギリシアとカルタゴの対立という、その後の歴史に大きな影響を与える出来事となりました。

この戦いの詳細な経過、戦略、そして登場人物の葛藤は、古代史における重要な教訓を提供し、現代においてもなお、その意義を問い直す価値があります。

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