シラス (地質)

シラスとは

シラスとは、九州南部一帯に厚く堆積している、細粒の軽石や火山灰からなる地層のことです。地質学的には、特に姶良カルデラから噴出した入戸火砕流による堆積物を指します。古くは白い砂を意味する言葉でしたが、現在では片仮名で「シラス」と表記されることが一般的です。

分布と地形

シラスは、九州南部の平野部を中心に広く分布しており、特に鹿児島湾北部を囲む地域で最も厚くなっています。鹿児島県内では数十メートル、場所によっては150メートルもの厚さに達します。シラスで形成された地形として、鹿児島市北西部から日置市にかけての丘陵地や、鹿屋市を中心とした笠野原台地が挙げられます。また、霧島市付近には、シラス層が他の地層の上に重なってできたテーブル状の丘陵群も見られます。これらの地形は、シラス台地と呼ばれています。

成分と性質

シラスの主成分は、ケイ酸や酸化アルミニウムなどの火山ガラスです。斜長石や石英なども含まれています。内部には微細な気泡が多数あり、空隙が50-58%と非常に多いため、比重は1.3程度と非常に軽いのが特徴です。また、粒子自体も比重が2.30-2.50と軽いです。引っ張り強度は小さいですが、粒子の複雑な形状によってインターロッキング効果が生じ、特殊な剪断特性を示します。

シラスは、自然状態では20-25%の水分を含んでおり、水分量が増加すると強度が著しく低下します。比重が低く分散性が高いため、水に流されやすく、一度地層が露出すると、ガリ侵食と呼ばれる急傾斜の深い谷を形成しやすくなります。また、地下水によって侵食され、地下空洞が形成されることもあります。これが崩落すると、シラスドリーネと呼ばれる穴や窪地ができます。

シラスの起源

シラスの起源については、19世紀末から様々な説が提唱されてきました。当初は霧島山の火山噴出物や海底堆積物が起源と考えられていましたが、1930年代には姶良火山からの溶岩流や海底火山の噴出物が提唱されました。1950年代以降の研究で、シラスが火砕流を起源とするという説が有力となり、1960年代にはその説が定着しました。

現在では、約2万5千年前に姶良カルデラで発生した巨大噴火による入戸火砕流が、シラスの大部分の起源であると考えられています。この火砕流の噴出量は約200立方キロメートルに達し、それに加えて姶良Tn火山灰と呼ばれる火山灰約150立方キロメートルが日本全国に降り注ぎました。

火砕流から直接堆積したものは一次シラスと呼ばれ、一次シラスが侵食・運搬され再堆積したものは二次シラスと呼ばれます。二次シラスのうち層をなしているものは層状シラス、水中に堆積したものは水生シラスと呼ばれます。その他、弱く溶結したものは固結シラス、風化したものは風化シラスと呼ばれます。地域によっては、入戸火砕流以外の火砕流堆積物もシラスと呼ばれることがあります。例えば、池田湖周辺の池田火砕流もその一つです。

農業への利用

シラスは、水はけが良すぎるため稲作には不向きであり、栄養分も乏しいという特徴があります。そのため、サツマイモ、桜島大根、ダイコン、ダイズ、アブラナなどの栽培が盛んです。また、鹿児島ではサツマイモを飼料として用いた黒豚の養豚も盛んに行われています。

用途

シラスは、研磨剤やコンクリートの骨材として利用されるほか、堆肥に混合して肥料としても用いられます。シラス粒子の多孔質構造と、主成分である珪酸やアルミナの特性から、消臭・調湿機能に優れており、自然素材系の健康建材であるシラス壁としても活用されています。また、シラス粒子を高温で加工し発泡させたシラスバルーンは、軽量で断熱性に優れるため、軽量プラスチックや自動車内装部品の素材としても利用されています。

シラスコンクリート

シラスを骨材として用いたシラスコンクリートは、劣化に強い特性があり、温泉の湯気、高温の地熱、強酸性の土壌など、過酷な環境下での利用に適しています。鹿児島県霧島市の丸尾滝橋の基礎部分にも採用されています。シラスとシラスコンクリートを混合・整形したシラス緑化基盤は、鹿児島市電軌道の緑化に活用されています。

近年では、環境型シラスコンクリートの開発も進められており、砂や砂利の代替としての未利用資源の活用や、コンクリートのリサイクルプロセスの形成、長寿命・多機能コンクリートの開発などが実現しています。この技術を用いた建築物も数々の賞を受賞しています。

シラス多孔質ガラス

宮崎県工業試験場によって開発されたシラス多孔質ガラス（SPG）は、シラスを原料とした多孔質ガラスで、細かで孔の大きさが揃ったフィルターを形成することができます。フィルター孔の直径は0.05～50ナノメートルの範囲で調整可能であり、液体や気体の濾過フィルター、吸着剤、微細で均一な粒子・気泡の形成など、様々な用途に利用されています。

シラス災害と対策

シラスで形成された急傾斜地は、大雨などによって崩壊しやすく、土石流を引き起こすことがあります。そのため、1952年に特殊土壌地帯災害防除及び振興臨時措置法の対象となり、斜面の崩壊防止対策が進められるようになりました。また、熊本県には、シラスドリーネが崩落して災害を起こすこともあるおひとがしと呼ばれる場所もあります。

まとめ

シラスは、九州南部特有の地層であり、その特徴的な性質から、農業や建築、環境保全など、様々な分野で利用されています。しかし、その一方で、災害を引き起こす可能性も秘めています。シラスの特性を理解し、適切な対策を講じることが重要です。

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