シンフォニア・ダ・レクイエム

ベンジャミン・ブリテン作曲の「シンフォニア・ダ・レクイエム」（作品20）は、1939年に日本の皇紀2600年奉祝曲として委嘱された交響曲です。かつては「鎮魂交響曲」とも訳されていましたが、声楽は含まれていません。この作品は、ブリテンの個人的な状況と時代の背景が複雑に絡み合った結果、日本での演奏が見送られたという経緯を持っています。

作曲の経緯

一般的には、日本政府からの委嘱で作曲されたものの、宗教的な理由や皇室に対する批判が含まれているとみなされ、日本側から却下されたとされています。しかし、実際にはブリテン自身の個人的な事情も深く関わっています。

1939年、第二次世界大戦の勃発により、ブリテンは盟友ピーター・ピアーズと共にアメリカへ移住します。その直後、イギリスがドイツに宣戦布告したことで、兵役を拒否していたブリテンは帰国できなくなりました。生活に困窮し、アメリカの好戦的な状況に失望していたブリテンは、知人から日本の皇紀2600年奉祝曲の委嘱の話を持ちかけられ、金銭的な理由からこれに応じました。

委嘱条件は、1939年9月頃に「交響的作品ならば580ポンド、序曲や行進曲ならばその半分から3分の1の委嘱料を支払う。1940年5月までに東京に送付すること」というものでした。ブリテンは自身のペースで作曲を進めていましたが、1940年 3月21日に日本側から作品の内容に関する問い合わせがあり、「馬鹿に完成を急がされている」と語っています。また、インタビューで「曲名は『シンフォニア・ダ・レクイエム』とする。両親の思い出に捧げる」と述べたところ、友人から「題名が日本政府を誤解させる可能性がある」と忠告されました。

1940年6月頃に作品を完成させ日本に送付、ブリテンは約束通り委嘱料を受け取りましたが、なぜか一桁多い金額が送金されていました。このことに気を良くしたブリテンは、9月頃に来日することも考えていたようです。しかし、11月に在英日本国大使館から「演奏拒否」の知らせが届き、ブリテンは一時落胆しましたが、後には「たくさんのお金を貰って、それを全部使ってしまっただけだ」と語っています。

日本側では、通説どおり、曲が「英霊に対する鎮魂」であるなどと解釈され、「折を見て演奏する」とされましたが、太平洋戦争の開戦により、結局演奏されることはありませんでした。皇紀2600年の式典に向けて30回ほど練習が行われたものの、曲調に対してオーケストラの編成が過大であり、音を合わせることすら困難であったため、仮に演奏が決定していたとしても、本番での演奏は見送られた可能性が高いとされています。

初演は1941年 3月29日、ジョン・バルビローリ指揮ニューヨーク・フィルハーモニックによって行われました。日本初演は1956年 2月18日、ブリテン自身の指揮によるNHK交響楽団の演奏でした。

楽曲構成

この交響曲は、以下の3つの楽章で構成されています。

1. 涙の日 (Lacrymosa): アンダンテ・ベン・ミズラート（緩やかな、行進風の哀歌）
2. 怒りの日 (Dies Irae): アレグロ・コン・フオーコ（“死の踊り”の形式）
3. 久遠の安息 (Requiem Aeternam): アンダンテ・モルト・トランクイッロ（最後の解決）

各楽章の題名は、ローマ・カトリック教会の「死者のためのミサ」から取られていますが、直接葬儀に関連するものではありません。ブリテンはそれぞれの楽章を、上記のように表現しています。曲はニ短調からニ長調へ移行し、演奏時間は約20分です。

楽器編成

フルート3（ピッコロ1、アルトフルート任意）、オーボエ2、コーラングレ1、クラリネット3（アルトサクソフォン任意）、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン6（2本任意）、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、バスドラム、スネアドラム、タンバリン、鞭、鉄琴、ハープ2（2台目任意）、ピアノ、弦楽五部。

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