ジョン・バルビローリ

サー・ジョン・バルビローリ：20世紀を代表するイギリスの指揮者

サー・ジョン・バルビローリ（1899年12月2日 - 1970年7月29日）は、20世紀を代表するイギリスの指揮者として広く知られています。愛称は「サー・ジョン」。イタリア人の父とフランス人の母の間にロンドンで生まれ、ジョヴァンニ・バッティスタ・バルビロッリという名で誕生しました。

バルビローリの音楽人生は、チェリストとして始まりました。1916年、わずか17歳でヘンリー・ウッドが率いるクイーンズ・ホール管弦楽団に入団。当時としては異例と言える若さでプロの音楽家としてのキャリアをスタートさせます。その後、1921年にはエルガーの『チェロ協奏曲』を演奏するなど、チェロ奏者として高い評価を得ました。弦楽四重奏にも参加するなど、室内楽奏者としての活動も積極的に行っています。

しかし、バルビローリの真の才能が開花するのは、指揮者として活動を開始してからでした。1925年、室内管弦楽団を組織し指揮者としての道を歩み始めます。そして、1936年、30代前半という若さでニューヨーク・フィルハーモニックの首席指揮者に就任。アメリカでの成功を収めた後、1943年にはイギリスのハレ管弦楽団の音楽監督に就任します。当時低迷していたハレ管弦楽団を、バルビローリの卓越した指導力と情熱によって再生、名門オーケストラとしての地位を回復させました。その後、1961年から1967年まではヒューストン交響楽団の常任指揮者を務めました。

バルビローリのレパートリーは非常に幅広く、古典から現代音楽まで多岐に渡ります。特に得意としていたのは、エドワード・エルガー、レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ、フレデリック・ディーリアスといったイギリスの作曲家たちの作品、そしてヨハネス・ブラームス、グスタフ・マーラー、ジャン・シベリウスといった後期ロマン派の巨匠たちの作品でした。中でも、マーラーの作品への造詣は深く、ダニエル・バレンボイムはバルビローリがマーラーに特別な共感を抱いていたと証言しています。バルビローリのマーラー演奏は、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団でマーラーの作品がレパートリーとして定着するきっかけを作ったと言われています。

バルビローリは数々の貴重な録音を遺しており、それらの多くは高い評価を受けています。特に有名で高く評価されているのは、ハレ管弦楽団とのマーラー交響曲第3番の録音で、マーラー研究家であるデリック・クックは、この録音をマーラーの演奏の中で最高のものの一つと絶賛しました。また、マーラーの交響曲第9番のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との録音も有名です。当時、バルビローリはEMI専属、ベルリン・フィルはドイツ・グラモフォン専属だったため、両社の協力によって実現した歴史的録音と言えるでしょう。シベリウスの交響曲全集や交響詩集、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」、シューベルトの交響曲第8番「ザ・グレート」、ブラームスの交響曲全集などの録音も高い評価を受けており、彼の幅広いレパートリーと高い音楽性を示しています。また、ジャクリーヌ・デュ・プレとのエルガーのチェロ協奏曲の演奏は特に名演として知られています。

バルビローリは作曲家としても活動しており、妻であるオーボエ奏者エヴリン・ロスウェル＝バルビローリのためにオーボエ協奏曲を編曲するなど、多方面で才能を発揮しました。ヴォーン・ウィリアムズとは親交があり、『交響曲第8番』の献呈を受けています。1955年には同交響曲を初演指揮するなど、ヴォーン・ウィリアムズの多くの作品を初演しました。

1970年、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団との日本公演を目前に、心臓発作により急逝しました。50歳代の終わりでした。惜しまれながら逝去したバルビローリですが、彼の残した数々の演奏、録音は、今なお世界中の音楽ファンを魅了し続けています。彼の音楽に対する情熱と、卓越した指揮者としての才能は、後世に大きな影響を与え続け、音楽史に燦然と輝く一時代を築いたと言えるでしょう。

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