シン・シュム・リシル

シン・シュム・リシル：アッシリア王位を主張した謎多き宦官

シン・シュム・リシル（Sin-shumu-lishir、在位紀元前626年）は、新アッシリア時代末期にアッシリア王を僭称した人物です。彼は、当時の王シン・シャル・イシュクンに対して反乱を起こし、バビロニア北部の都市を一時的に支配しましたが、わずか3ヶ月で鎮圧されました。特筆すべきは、彼が歴史上唯一のアッシリア王位を主張した宦官であったことです。

名前について

シン・シュム・リシルの名前は、様々な表記が見られます。例えば、Sin-shumu-lishir、Sin-shumu-lisher、Sin-shum-lishirなどです。新アッシリア時代の楔形文字では表現され、アッカド語ではSîn-šumu-līšir/Sîn-šumu-lēširと呼ばれていました。この名前は「シン神よ、その名を栄えさせたまえ」という意味を持ちます。

生涯

シン・シュム・リシルの出自や家族構成については、ほとんど何もわかっていません。彼が歴史に登場するのは、アッシュル・エティル・イラニ王（在位：紀元前631年 - 紀元前627年）の治世下において、宮廷の有力者・将軍として活動していた頃です。アッシュル・エティル・イラニが王位を確保する際、シン・シュム・リシルは重要な役割を果たし、反乱を鎮圧して彼の地位を安定させました。そのため、王の有力な将軍として、シン・シュム・リシルはアッシュル・エティル・イラニの治世下において事実上の支配者であった可能性も指摘されています。

アッシュル・エティル・イラニが短い治世の後、紀元前627年に死去すると、彼の兄弟であるシン・シャル・イシュクンが王位を継承しました。シン・シュム・リシルは、この新たな王によって自身の地位が脅かされると考え、シン・シャル・イシュクンに対して反乱を起こしたと考えられています。彼は当初、ニップルやバビロンといった都市を攻略することに成功しましたが、わずか3ヶ月後にはシン・シャル・イシュクンによって打ち破られました。

シン・シュム・リシルは、アッシリア本国を完全に支配することはできませんでしたが、王位を主張した人物として、アッシュル・エティル・イラニやシン・シャル・イシュクンと共に、現代の歴史学において新アッシリア時代末期の王の一人として扱われています。

宦官としての出自

シン・シュム・リシルが宦官であったことは、彼の特異な点です。アッシリアでは、王位簒奪の脅威を避けるため、宦官が政府の重要な地位に任命されることがありました。シン・シュム・リシルもその一人であり、アッシュルバニパルの治世中から宮廷で力を持っていたと考えられています。

アッシュル・エティル・イラニの即位への貢献

アッシュルバニパルの死後、シン・シュム・リシルは自身が保有していた私兵を率いて、王子アッシュル・エティル・イラニが王位を得る上で重要な役割を果たしました。彼はアッシュル・エティル・イラニの「rab ša rēši（偉大な宦官/宦官長）」として記録に登場し、アッシュル・エティル・イラニの家宰、あるいは若い頃から仕えた有力な将軍であった可能性が高いです。

反乱の鎮圧

アッシュル・エティル・イラニの即位は、多くの反対と動揺を招きました。ナブー・リフツ・ウツルという役人が、シン・シャル・イブニの協力を得て王位を簒奪しようとしたとされています。しかし、シン・シュム・リシルはアッシュル・エティル・イラニを助け、簒奪者たちの企みを阻止しました。また、シン・シュム・リシルが3人の個人に対してアッシュル・エティル・イラニの主権を保証させた条約を記した粘土板も現存しており、彼の権勢を物語っています。

事実上の支配者として

シン・シュム・リシルは、アッシュル・エティル・イラニの治世において、事実上のアッシリアの支配者であった可能性があります。アッシュル・エティル・イラニの死後、シン・シャル・イシュクンが王位を継承すると、シン・シュム・リシルは自らの地位が脅かされると考え、反乱を起こしました。

アッシリア王位への挑戦

危機や王位継承の際に軍事的指導者が王位を主張することは珍しくありませんでしたが、宦官がそれを試みるのは異例でした。シン・シュム・リシルは、アッシリア王位を主張した歴史上唯一の宦官です。ニネヴェで発見された髭のない王を描いた印影は、彼を描いたものとする説もあります（アッシリアの王は髭を蓄えた姿で描かれるのが常でしたが、宦官は髭がない姿で描かれました）。

短期間の支配と敗北

シン・シュム・リシルは、権力を奪取するために、ニップルやバビロンといったバビロニア北部の重要都市を占拠しました。しかし、彼が支配できたのはバビロニアの一部に過ぎず、「アッシリア王」の称号のみを主張し、「バビロンの王」の称号は用いなかったようです。彼の支配はわずか3ヶ月で終わり、シン・シャル・イシュクンによって打ち破られました。

シン・シュム・リシルは短期間の間にアッシリアの歴史に名を刻んだ人物であり、その出自や背景には謎が多く残されています。

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