ジェフ・フェネック

ジェフ・フェネック (Jeff Fenech)

オーストラリアが生んだ不世出のボクシングヒーロー、ジェフ・フェネックは、1964年5月28日にこの世に生を受けました。獰猛なファイトスタイルと不屈の精神でファンを魅了し、プロキャリアで前人未到の世界4階級制覇という偉業を成し遂げた伝説的なボクサーです。IBF世界バンタム級、WBC世界スーパーバンタム級、WBC世界フェザー級、そして後に追認定されたWBC世界スーパーフェザー級のタイトルを獲得しました。

アマチュアからプロへ

フェネックは、プロ転向以前からその才能の片鱗を見せていました。1984年に開催されたロサンゼルスオリンピックには、フライ級のオーストラリア代表として出場。世界の強豪が集う舞台で準々決勝まで勝ち進むなど、すでに国際的なレベルでの実力を証明していました。オリンピックでの経験を経て、同年10月12日にプロボクサーとしてのキャリアをスタートさせます。プロデビュー後、わずか3戦目となる1984年11月30日には、早くもオーストラリアスーパーフライ級王座を獲得するなど、その急激な成長ぶりは周囲を驚かせました。

世界王座への道

プロのリングでわずか7戦目という異例の早さで、ジェフ・フェネックは世界タイトルマッチのチャンスを掴みます。1985年4月26日、IBF世界バンタム級王者であった日本の新垣諭に挑戦。経験豊富なチャンピオンに対し、フェネックは圧倒的なパワーと手数で試合を支配し、9回TKO勝利で見事、自身初となる世界王座を獲得しました。この勝利は、彼の名を一躍世界に知らしめることとなります。初防衛戦も同じく新垣諭を相手に行われ、これを4回TKOで退けるなど、バンタム級王者として強さを見せつけ、計3度の防衛に成功しました。

短期間での階級制覇

バンタム級での実績を積み上げた後、フェネックはさらなる高みを目指し、階級を上げます。1987年3月にIBFバンタム級王座を返上し、同年5月8日にはWBC世界スーパーバンタム級王者サーマート・パヤクァルンへの挑戦が実現しました。この試合では、キャリアで初めてとなるダウンを喫する苦しい展開となりますが、フェネックは驚異的な回復力を見せ、4回に逆転のKO勝利。2階級制覇を達成しました。スーパーバンタム級でも強さを発揮し、グレッグ・リチャードソン、カルロス・サラテといった強豪相手に2度の防衛を果たした後、さらなる階級アップを決定。1988年3月7日、WBC世界フェザー級王座決定戦でビクトル・カジェハスに10回TKO勝ちを収め、プロわずか20戦目にして3階級制覇という、当時の世界最速記録を樹立しました。（この記録は後に日本の井岡一翔選手によって更新されます。）フェザー級でも盤石の強さを見せ、マルコス・ビジャサナらを退け3度の防衛を果たしました。

アズマー・ネルソンとの因縁、そして追認定

3階級を制覇したフェネックは、1990年5月にフェザー級王座を返上し、4階級制覇を目指してスーパーフェザー級に挑戦します。そのターゲットとなったのは、当時のWBC世界スーパーフェザー級王者、ガーナのアズマー・ネルソンでした。1991年6月28日に行われた両者の初対戦は、壮絶な打撃戦の末に1-1の引き分けという判定に終わります。フェネック陣営、そして多くのファンは、この判定は疑惑であるとして強く抗議しました。しかし、当時の裁定は覆らず、フェネックは4階級制覇を逃すこととなりました。この結果に納得できなかった両者は、翌1992年3月1日に再び対戦。しかし、このリマッチはネルソンが8回TKO勝利を収め、フェネックはプロキャリア初の黒星を喫するとともに、再度4階級制覇の夢は破れました。

長い年月が流れた後、2022年にWBC（世界ボクシング評議会）は、1991年のネルソン対フェネックの試合における判定を見直し、ジェフ・フェネックが勝利していたと改めて認定する異例の発表を行いました。これにより、ジェフ・フェネックのWBC世界スーパーフェザー級王座獲得が正式に認められ、彼は名実ともに世界4階級制覇王者となったのです。これは、スポーツ史においても極めて珍しい出来事と言えるでしょう。

キャリアの晩年と引退後

ネルソンとの2戦目以降、フェネックのキャリアは下降線を辿ります。1993年にはカルビン・グローブにKO負けを喫し、再起を目指すも往年の輝きは戻りませんでした。最後の世界挑戦となったのは、1996年5月18日のIBF世界ライト級王者フィリップ・ホリデー戦でしたが、2回TKO負けに終わり、この試合を最後に現役から退きました。

引退後、フェネックは故郷オーストラリアで自身のジム「チーム・フェネック」を設立し、後進の指導にあたります。ビック・ダルチニアンやダニー・グリーンなど、多くの実力派ボクサーを育て上げ、トレーナーとしても成功を収めました。そのボクシング界への貢献が称えられ、2002年には栄誉ある国際ボクシング名誉の殿堂博物館に殿堂入りを果たしています。

一度は引退したフェネックでしたが、2008年6月24日には地元オーストラリアで12年ぶりの現役復帰を果たします。対戦相手は、かつての宿敵アズマー・ネルソン。スーパーウェルター級契約で行われたこの試合は、結果的にフェネックが2-0の僅差判定で勝利を収め、因縁の対決に終止符を打ちました。

ジェフ・フェネックは、その卓越した技術、爆発的な攻撃力、そして何よりも不屈の闘志によって、オーストラリアボクシング史上最高の選手の一人として語り継がれています。度重なる怪我に苦しみながらもリングに立ち続け、後に正式に認められた4階級制覇の偉業は、彼の不屈の精神の証と言えるでしょう。

もう一度検索