ジェームズ・ワイアット (建築家)

ジェームズ・ワイアット（1746年8月3日 - 1813年9月4日）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて活動したイギリスの著名な建築家です。彼は同時代のロバート・アダムと並び称され、競争相手と見なされることが多かった人物です。新古典主義建築の普及に貢献した一方で、後にゴシック建築にも深く傾倒しました。

スタッフォードシャー州ウィーフォードに生を受けたワイアットは、若い頃から建築への才能を示しました。1762年にはイタリアへ渡り、ヴェネツィアで約6年間、建築家アントニオ・ヴィセンティーニのもとで研鑽を積みました。このイタリアでの経験は、彼の建築様式に大きな影響を与えたと考えられます。

イギリス帰国後、1772年にロンドンに開場した「パンテオン」の設計を手がけ、一躍その名を知られることとなりました。このパンテオンは、劇場や集会施設として利用され、その革新的な設計は高い評価を得ましたが、残念ながら1937年に解体されています。この初期の成功により、ワイアットは建築家としての確固たる地位を築きました。

ワイアットのキャリアを通じて、彼は多様な様式に取り組みました。当初は新古典主義建築を得意としていましたが、次第にゴシック建築にも強い関心を示すようになります。特に、美術愛好家であり富豪であったウィリアム・トマス・ベックフォードの依頼により設計したフォントヒル・アビーは、彼のゴシック様式への傾倒を象徴する広壮な建築物として知られています。この僧院風の邸宅は、その規模と幻想的な雰囲気で注目を集めました。

また、彼はソールズベリー大聖堂、ダラム大聖堂、ヘレフォード大聖堂といった歴史ある大聖堂の修復や改修にも携わりました。しかし、これらの修復手法については、後世において批判的な評価がなされることもありました。これは、当時の歴史的建造物に対する修復の考え方やアプローチが、現代とは異なっていたことを示唆しています。

公的な分野でも活躍し、1796年にはウィリアム・チェンバーズの後任として、王室の建築監査官に任命されました。これにより、彼は国家的な建築プロジェクトにも深く関与することになります。

アカデミックな世界では、1785年にロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの会員に選ばれ、アカデミーの運営に積極的に参画しました。1803年には、アカデミーの運営自主性を巡る評議会の動きに関与し、生じた内部の不和を経て、1804年に会長ベンジャミン・ウエストが辞任した後に行われた選挙で会長に選出されました。しかし、この選出に対して国王の承認が得られず、短期間で会長職を退き、1806年には再びウエストが会長に復帰することに同意しました。

1813年9月4日、バークシャーを友人と旅行中に馬車の事故に遭い、その怪我がもとで死去しました。

ジェームズ・ワイアットの息子たちもまた、芸術や建築の世界に進みました。ベンジャミン・ディーン・ワイアット（1775年 - 1852年）とフィリップ・ウィリアム・ワイアット（1785年 - 1835年）は建築家として、マシュー・コーツ・ワイアット（1777年 - 1862年）は画家・彫刻家として活躍し、ワイアット家の芸術的な系譜を継承しました。

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