ジキル博士とハイド氏 (1931年の映画)

1931年版『ジキル博士とハイド氏』：ホラー映画史に輝く傑作

1931年、ルーベン・マムーリアン監督によって世に放たれた『ジキル博士とハイド氏』は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの同名小説を映画化したホラー映画です。フレドリック・マーチが演じる主人公、ヘンリー・ジキル博士は、薬物実験を通して自身の内に潜む邪悪な人格、エドワード・ハイド氏を開放させようとします。この実験は、ジキル博士を破滅へと導く危険な道程の始まりでした。

薬物と人格の変貌：善と悪の狭間で

映画は、善と悪の両面を内包する人間の複雑な心理を深く探求しています。温厚な科学者ジキル博士が、自らの手で開発した薬物を服用することで、冷酷で残忍なハイドへと変貌を遂げる様は、見る者を圧倒する迫力です。薬物への依存は深まり、ジキル博士は次第にハイドの人格を制御できなくなっていきます。善と悪の狭間で揺れ動くジキル博士の姿は、人間の脆さと深淵を鮮やかに描き出しています。

画期的な特殊メイクと演出：ハイドの恐ろしさ

この映画におけるもう一つの見どころは、ウォーリー・ウェストモアによるハイドの特殊メイクです。猿のような顔つきに鋭い犬歯、乱れた毛髪という、ハイドの恐ろしさを見事に表現したこのメイクは、後のジキルとハイド氏の映像表現に大きな影響を与えました。さらに、マムーリアン監督は、特殊なフィルターを用いた撮影手法によって、ジキル博士からハイドへの変貌を劇的に演出しています。この革新的な技術は、当時の観客に衝撃を与えたことでしょう。

キャストと受賞歴：名優たちの競演

フレドリック・マーチによるジキル博士とハイド氏の巧みな演技は高く評価され、アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。これは、同年の『チャンプ』での演技も評価されたウォーレス・ビアリーとの同時受賞という快挙でした。さらに、マムーリアン監督はヴェネツィア国際映画祭で創作ファンタジー賞を受賞するなど、この映画は数々の賞に輝き、その高い芸術性を証明しました。ミリアム・ホプキンズ、ローズ・ホバートら豪華キャストの共演も作品の魅力を高めています。

映画史における位置づけ：忘れられた名作の復活

1941年にMGMが製作したリメイク版が公開された際、1931年版のフィルムはほとんどが破棄され、失われたと長年信じられていました。しかし、後に一部のフィルムが発見され、現在ではDVDなどで鑑賞することができます。この1931年版は、ヘイズ・コード適用前の作品であるため、性的な描写なども含む、当時の作品としては大胆な内容となっています。バッハの『トッカータとフーガ ニ短調』が使用されたオープニングシーンも印象的です。

1931年版『ジキル博士とハイド氏』は、その特殊メイク、演出、そして名優たちの演技によって、現在でも高い評価を受けているホラー映画の金字塔です。薬物によって引き起こされる人格の変貌というテーマは、時代を超えて観客の心を捉え続けています。この映画は、人間の深層にある善と悪の葛藤、そしてその脆さを改めて考えさせる、不朽の名作と言えるでしょう。

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