ジミー・テルアキ・ムラカミ

ジミー・テルアキ・ムラカミ：アニメーションに生涯を捧げた日系アメリカ人監督

ジミー・テルアキ・ムラカミ（Jimmy Teruaki Murakami）、日本名:村上 輝明（1933年6月5日 - 2014年2月16日）は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ出身のアニメーション監督、アニメーター、映画監督です。日系アメリカ人二世として、激動の時代を生き抜き、アニメーションの世界で多大な功績を残しました。ジミー・ムラカミ、ジミー・T・ムラカミとも表記されます。

生い立ちと強制収容

ムラカミは、サンノゼの日本人コミュニティで農場を営む日系移民の家庭に生まれました。しかし、第二次世界大戦勃発により、家族とともにトゥーリーレイク戦争移住センターに強制収容されるという過酷な経験をしました。収容所では、姉を白血病で亡くすという悲劇にも見舞われています。収容所生活の中で、教師から本名の「テルアキ」が発音しにくいという理由で英語名を付けるように言われ、当時の人気俳優ジミー・スチュワートにあやかり「ジミー」と名乗るようになりました。

収容所時代には、捕まえたカモメに日の丸を描いて飛ばすのが趣味でしたが、それを快く思わない監視塔のアメリカ兵によって、カモメを全て撃ち殺されてしまうという悲しい出来事も経験しました。この頃にディズニーアニメ『白雪姫』を観たことがきっかけとなり、アニメーターを志すようになります。

アニメーターとしてのキャリア

1946年に収容所から解放されたムラカミは、ロサンゼルスの美術学校Chouinard Art Instituteに奨学生として入学し、デッサンから油彩、水彩、木版画まで幅広い美術を学びました。在学中にアニメーターの誘いを受け、1956年からアニメーション会社ユナイテッド・プロダクションズ・オブ・アメリカで働き始めます。周囲には赤狩りやストライキでディズニーを離れたアニメーターが多く、ムラカミは自身の能力を認めてもらうため、侍をテーマにした短編映画を自主制作し、高い評価を得ました。その後、キャラクターデザインや絵コンテ製作にも携わるようになります。

1年後、ニューヨークのPintoff Studioに移籍したムラカミは、デザインから背景製作、監督まで幅広く担当し、才能を開花させます。1959年に手掛けた『The Violinist』は、翌年のアカデミー賞短編映画・アニメ部門にノミネートされ、英国映画テレビ芸術アカデミーではベスト・アニメ賞を受賞しました。その後、東京の東映動画で1年間勤務した後、ロンドンのBBCテレビジョンセンターでテレビアニメのプロデューサー、監督として活躍しました。

アイルランドでの活動

アメリカ帰国後、フレッド・ウルフと共同でハリウッドにMurakami Wolf Productions社を設立し、『The Breath』など数々の優れた作品を制作しました。1970年には、『レッド・バロン』の制作のためにアイルランドのダブリンに滞在したことがきっかけで、現地の女性と結婚し、同地で生活を始めます。ダブリンではQuarteru Films社を設立し、アニメーション広告などを手がけました。

1980年には、『宇宙の7人』の監督を務め、ジェームズ・キャメロンに美術監督としての初仕事を与えました。また、レイモンド・ブリッグズ原作の『スノーマン』や『風が吹くとき』など、多くの映画賞に輝く名作に携わりました。特に『風が吹くとき』は、原爆や戦争の悲惨さを描いた作品として、世界的に高い評価を受けています。

1987年にはMurakami Wolf社のダブリン支社を設立し、『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』のテレビアニメシリーズ制作を開始しました。このアニメ制作には100人以上のアニメーターが雇用され、アイルランドのアニメ業界の発展に大きく貢献しました。

教育者としての貢献

ムラカミは、ダブリンを拠点に国内外のアニメ制作に携わる傍ら、多くのアニメーターを育て、アイルランドのアニメ業界の発展に尽力しました。ダン・レアリーの美術学校やバリファーモットアニメーション学校で講師も務め、後進の育成に力を注ぎました。2006年には、ダンディー大学から名誉博士号を授与されています。

日本との関わり

アイルランド人監督によるドキュメンタリー映画『Jimmy Murakami - Non Alien』（2010年）では、ムラカミの人生が描かれました。この作品は、ムラカミが少年時代に収容所で描いた絵がきっかけとなり制作されました。映画では、強制収容所での経験、アニメーションへの情熱、そして原爆に対する思いなどが語られています。また、ムラカミが晩年に制作を試みた劇場映画『The Morning of a Hundred Suns』は、広島の原爆をテーマにした作品でした。

画家としての活動

晩年の10年間は、油彩や水彩画に集中し、個展を開催するなど、画家としても活動しました。写生から静物画、彫刻まで幅広く手がけ、東京で仕事をしていた時期には、水彩と木版画を展覧会に出品しています。また、自伝映画の制作期間には、少年時代をテーマにした油彩を制作しました。

ムラカミの遺産

ジミー・テルアキ・ムラカミは、アニメーションの世界で数々の名作を生み出しただけでなく、アイルランドのアニメ業界の発展に大きく貢献しました。彼の作品は、世界中の人々に感動と勇気を与え、後世のアニメーターたちに大きな影響を与えています。2013年には、アニメーション業界への貢献を称え、ディングル国際映画祭に「ムラカミ賞」が設けられ、ムラカミ自身がその最初の受賞者となりました。

2014年2月16日、ムラカミは80歳でこの世を去りましたが、彼の情熱と才能は、アニメーション史に永遠に刻まれるでしょう。

主な作品

『レッド・バロン』（1971年）アソシエイト・プロデューサー
『モンスター・パニック』（1980年）監督（追加シーン、クレジットなし）
『宇宙の7人』（1980年）監督
『スノーマン』（1982年）スーパーバイジング・ディレクター
『風が吹くとき』（1986年）監督
『クリスマス・キャロル』（2001年）監督

テレビシリーズ

『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』
『ナルニア国物語』（1988年）アニメ監督（2話分のアニメ部分）
『ストーリーキーパーズ』監督
『インスペクター・マウス』監督
『オイ、ゲットオフ・アワ・トレイン』（1998年）アニメ監督最終作
『南の島の小さな飛行機 バーディー』（2006年）アニメーション監修

主な受賞

『The Violinist』英国映画テレビ芸術アカデミー ベスト・アニメ賞（1960年）、アカデミー賞短編映画・アニメ部門候補（1960年）
『The Breath』アヌシー国際アニメーション映画祭短編部門グランプリ（1967年）
『Charley』第26回ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞（児童向けテレビアニメ作品）
スカラスティック社美術奨励賞 Scholastic Art Award, Certificate of Merit（1952年度）
* ムラカミ賞（2013年）

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