ジャマーアテ・イスラーミー

ジャマーアテ・イスラーミー：イスラーム主義組織の興隆と展開

ジャマーアテ・イスラーミー（Jamaat-e Islami）は、1941年、サイイド・アブルアアラー・マウドゥーディーによって英領インドで創設されたイスラーム主義組織です。ムスリム同胞団と並び、イスラーム世界において最も影響力のある組織の一つとして数えられています。本稿では、その歴史的背景、マウドゥーディーの思想、組織構造、そして世界各国における展開について詳細に解説します。

時代背景：インド・パキスタンの分離独立

1940年、全インド・ムスリム連盟はラーホール決議を採択し、インド亜大陸のムスリム多数派地域に独立国家を建設することを目指しました。この決議は、ヒンドゥー教徒とムスリムが異なる民族であるという二民族論に基づいており、インド国民会議とムスリム連盟の間で激しい対立を引き起こしました。

当時、全インド・ウラマー協会を率いていたフサイン・アフマド・マダニーは、統一インドを支持しつつ、ムスリムとヒンドゥー教徒が別々の制度を持つ複合民族主義を提唱していました。

マウドゥーディーの思想とインド分割への反対

マウドゥーディーは、イギリスからの独立という点ではマダニーらと一致していましたが、ムスリム多数派地域における国家建設や複合民族主義には反対の立場をとりました。彼は、インド分割によってイスラームにおけるウンマ（共同体）の教義が損なわれることを危惧していました。この考え方は、後のバングラデシュ独立戦争において、ジャマーアテ・イスラーミーが東パキスタン（現バングラデシュ）の独立に反対し、西パキスタンを支持した理由となりました。

マウドゥーディーは、ムスリムは単なる社会的・経済的利益を追求する集団ではなく、「原則と理論に基づいた」イデオロギー的な集団であると考えていました。彼は、厳格な組織体制とイデオロギーに基づいた「正しい」党のみが、インド全体をイスラーム国家（ダール・アル＝イスラーム）に変えることができると主張しました。そして、そのイスラーム国家は、圧迫や専制ではなく、公正で慈悲深いものになると考えていました。

ジャマーアテ・イスラーミーの創設と組織構造

マウドゥーディーは、ナショナリズムはイスラーム的ではないと考え、1941年8月26日、ラーホールでジャマーアテ・イスラーミーを創設しました。彼は、この党を初期ムスリムの模範に倣ったイスラーム革命の尖兵と位置付けていました。

組織構造はピラミッド型で厳密に階層化されており、アミール（党首）の指導の下、党員と支持者がイデオロギー的なイスラーム社会の確立を目指して活動しました。支持者全員が党員になれるわけではなく、エリート層のみが党員になることができました。これは、マウドゥーディーが社会は上から下に影響されると考えていたためです。

インド・パキスタン分離独立までの数年間、ジャマーアテ・イスラーミーは激しい政治対立から距離を置き、党員訓練と組織強化に専念しました。

関連組織の展開

インド・パキスタン分離独立後、ジャマーアテ・イスラーミーは複数の関連組織を設立しました。主な組織は以下の通りです。

ジャマーアテ・イスラーミー（パキスタン）: 1947年、マウドゥーディーは西パキスタンに移り、イスラーム国家建設を目指して活動しました。バングラデシュ独立戦争では西パキスタンを支持しました。
ジャマーアテ・イスラーミー（インド）: 1947年、インドに残ったメンバーによって設立されました。
ジャマーアテ・イスラーミー（カシミール）: 1953年結成。
ジャマーアテ・イスラーミー（バングラデシュ）: バングラデシュ独立後設立されましたが、独立戦争における戦争犯罪の関与を理由に、2013年に政党としての登録が違法とされ、選挙への参加資格を剥奪されました。
UK Islamic Mission（イギリス）: 1962年設立。
ジャマーアテ・イスラーミー（アフガニスタン）: 1972年設立。ソ連のアフガニスタン侵攻に対するジハードで重要な役割を果たしました。
* ヒズベ・イスラーミー: 1975年、ジャマーアテ・イスラーミー（アフガニスタン）から分離して設立されました。

結論

ジャマーアテ・イスラーミーは、マウドゥーディーの強力なイデオロギーと厳格な組織構造を背景に、インド・パキスタン分離独立後も世界各地で影響力を及ぼし続けています。しかし、その活動は常に論争の的であり、特にバングラデシュ独立戦争での役割をめぐっては、現在も厳しい批判にさらされています。今後のジャマーアテ・イスラーミーの動向は、国際社会の注目を集め続けるでしょう。

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