西パキスタン

1947年のイギリスからの独立に伴い誕生したパキスタンは、地理的にインドを挟んで東西に分断された二つの領域から成っていました。その西側の構成地域を指すのが西パキスタンです。ウルドゥー語では「マグリビー・パーキスターン」、ベンガル語では「ポッシム・パーキスターン」と呼ばれたこの領域は、現在のパキスタンの国土の大部分を占めます。

成立と構成

独立当初、西パキスタンはカイバル・パクトゥンクワ、西パンジャーブ、シンドの3つの知事州、バルチスタン州、バルチスタン州連合、バハワルプールなどの有力な藩王国、そして連邦首都領域（カラチ周辺）や連邦直轄部族地域など、多様な行政区分から成り立っていました。一方、東パキスタンは東ベンガル州（現在のバングラデシュ）のみで構成されていました。

政治的には、人口で過半数を占める東パキスタンに対し、西パキスタンは憲法制定議会で多数派を形成し、国政において優位を占めていました。この政治的な不均衡と、両地域間の物理的な距離は、新しい憲法の制定作業を遅延させる要因となりました。

「一つの連邦」政策とその影響

東西間の差異を解消し、国家の一体性を強化する目的で、1954年11月には「一つの連邦（One Unit）」政策が発表されました。この政策の下、西パキスタンの様々な州や地域は統合され、一つの広大な州へと再編成されたのです。西パキスタンの州都は当初カラチに置かれた後、ラホールを経て、最終的にイスラマバードに定められました。一方、東ベンガル州は東パキスタンと改称され、州都はダッカとなりました。

しかし、「一つの連邦」政策は西パキスタンの内部、特に旧州からの強い反発を招き、地方自治を求める声が高まりました。また、西パキスタンと東パキスタンは、政治思想、言語、文化、さらには外交姿勢（西は親米、東はより世俗的・社会主義的傾向）において顕著な違いがあり、両地域間の緊張は国家全体の不安定化に繋がったのです。ラホールなどで発生した民族間・宗教間の衝突は国内に混乱をもたらし、印パ間の対立も深まりました。

政治体制の変遷

建国から1950年代後半にかけて、パキスタンは度重なる政変に見舞われました。政局の不安定化や「一つの連邦」政策への不満を背景に、1958年には陸軍司令官アユーブ・ハーン将軍による軍事クーデターが発生しました。これにより憲法は停止され、パキスタンは軍事独裁政権の下に置かれます。アユーブ・ハーン政権は首都をラワルピンディ近郊（後にイスラマバード）に移転するなど中央集権化を進めましたが、地方の不満は解消されませんでした。

内政では、東パキスタンとの対立、一つの連邦政策への反発に加え、社会主義思想の影響が高まり、ズルフィカール・アリー・ブットーによるパキスタン人民党の結成など、政治勢力の再編が進みました。

消滅への道程

長らく続いた「一つの連邦」政策は、地方からの強い廃止要求や社会不安の高まりを受け、1970年についに解消されることとなりました。ヤヒヤ・カーン大統領兼将軍の命令により、1970年7月1日、西パキスタンの広大な単一州は解体され、バルチスタン、カイバル・パクトゥンクワ（旧西北辺境州）、パンジャーブ、シンドといった旧州が復活したのです。同時に、「西パキスタン」という呼称は公式に廃止され、この領域は単に「パキスタン」と呼ばれることになりました。

1970年12月に行われた総選挙では、東パキスタンのアワミ連盟が圧勝しましたが、軍事政権はアワミ連盟への政権移譲を拒否しました。これは東パキスタンの独立運動を加速させ、1971年12月のバングラデシュ独立戦争へと繋がったのです。東パキスタンの分離独立により、東西に分かれたパキスタンという国家構造は崩壊し、「西パキスタン」という歴史上の存在は文字通り消滅しました。

外交関係

外交面では、西パキスタンは冷戦下においてアメリカ合衆国を中心とする西側諸国と緊密な同盟関係を築きました。SEATOやCENTOといった軍事同盟にも加盟し、多大な経済・軍事援助を受けました。一方、ソビエト連邦とはパキスタンの親米姿勢などから関係は冷ややかでした。隣国インドとは、カシミール問題を巡る対立などから常に緊張関係にあり、1947年と1965年には大規模な武力衝突（印パ戦争）を経験しました。アフガニスタンとの国境も未確定の部分があり、パシュトゥン族居住地域の帰属などを巡って緊張が生じることもありました。これに対し、中華人民共和国とは建国初期から良好な関係を維持し、パキスタンは中国を承認した最初の国の一つとなりました。両国は経済的・軍事的な協力関係を深め、緊密な戦略的パートナーシップを構築しました。

まとめ

西パキスタンの歴史は、独立後の新しい国家が直面した地域対立、政治的混乱、軍事介入、そして国際情勢の中での厳しい選択を如実に示しています。短命ではありましたが、その経験は現在のパキスタンの国家形成とアイデンティティに大きな影響を与えました。

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