ジャンバッティスタ・ヴィーコ

ジャンバッティスタ・ヴィーコ

ジャンバッティスタ・ヴィーコ（Giambattista Vico, 1668-1744）は、バロック時代から啓蒙時代にかけてイタリアで活躍した哲学者です。

生涯

ナポリの貧しい製本業者の家庭に生まれ、幼い頃から聡明さを示し、初等教育を受けました。7歳で階段から転落し頭部を負傷したことで、それまでの明るい性格が一転、憂鬱で批判的な人柄になったと自伝に記しています。学校教育には馴染めず、哲学、文学、歴史、法学、自然学などをほぼ独学で学びました。18歳で侯爵の子息の家庭教師となり、9年間を侯爵の城で過ごし、その間に城内の蔵書を利用して広範な知識を吸収し、精神的な成長を遂げました。1695年にナポリに戻り、様々な職業を探した後、1699年に王立ナポリ大学の修辞学教授に就任します。より高給の法学教授職を目指しますが、1724年の公募では叶いませんでした。主著『新しい学』の初版は1725年に出版されましたが、出版費用を支援するはずだった人物が約束を反故にしたため、自身の宝石を処分し、原稿を削減しての刊行という苦難を伴うものでした。

哲学思想

反デカルト学説

ヴィーコは、デカルト派の「数学的知識のみが確実である」という認識論に強く反対しました。彼は、学問において必要なのは、何が認識可能で何が認識不可能かを見分ける基準だと考え、その基準として「真理と事実の可換性（verum et factum convertuntur）」、すなわち、人間が何かを真に理解できるのは、それが人間自身によって創造されたものである場合のみ、という原理を提唱しました。この考えに基づけば、人間が作り出した数学や、人間の「行為」の歴史は、確実な認識の対象となり得ます。これにより、歴史は数学と並ぶ、厳密な認識が可能な学問として位置づけられました。

歴史哲学

歴史研究にあたり、ヴィーコはいくつかの前提を置きました。第一に、異なる時代でも共通の一般的性質を持つことがあり、それによって時代間の類推が可能であること。第二に、同じ種類の時代が一定の順序で繰り返される傾向があること、例えば英雄時代に続いて古典時代が到来し、その後再び野蛮な状態へと衰退するという歴史の循環を考えました。しかし彼は、この運動が単なる繰り返しではなく、螺旋を描きながら進展すると見なしました。この点で、歴史は予測不可能であるとし、プラトンやマキャベリといった先行思想家とは一線を画しました。20世紀の歴史家アーノルド・J・トインビーの歴史観は、ヴィーコの考え方に近いとされます。

ヴィーコはまた、歴史家が陥りやすい五つの誤謬を指摘しました。

1. 古代を過度に理想化し、誇張すること。
2. 自国の歴史や文化に対する過剰な自負。
3. 歴史上の人物に自らの性質や考え方を投影すること。
4. 異なる民族間で類似の文化や制度が見られる場合に、一方が他方から借用したと安易に結論づける偏見。
5. 古代の出来事に関して、当時の人々が現代人よりも事情に通じていたと見なす偏見。

さらに、歴史研究において文献だけでなく、言語学、神話、伝説、同時代の未開社会の習俗、子どもや農民が語る物語なども重要な資料となり得ると主張しました。彼は文献学と哲学を統合することで、歴史研究に科学的な確実性を与えようと試みました。また、芸術は論理に従属するものではなく、むしろ芸術の創造力は論理に先行すると考え、反合理主義の立場を鮮明にしました。

影響と評価

ヴィーコの革新的な歴史哲学は、彼の生前にはほとんど顧みられませんでした。同時代の思想家であるモンテスキューは彼の著作を所有していましたが、その影響は見られず、ドイツの哲学者ヨハン・ゴットフリート・ヘルダーがヴィーコに言及するのは18世紀末になってからです。ヴィーコの思想が本格的に評価されるのは、20世紀に入り、特にイタリアの哲学者ベネデット・クローチェの研究を待たねばなりませんでした。日本においては、和辻哲郎や清水幾太郎がヴィーコを紹介し、現代でも上村忠男氏が多くの翻訳・研究を手がけています。他にも、エーリヒ・アウエルバッハやエドワード・サイードといった著名な研究者、そして日本の知識人である立花隆、西部邁らもヴィーコに言及し、その影響や思想の重要性を論じています。

主な著書

『新しい学』(Principi di scienza nuova), 1725年
『ヴィーコ自叙伝』(Vita Di Giambattista Vico Scritta da s'e Medesimo), 1725-31年
『イタリア人の太古の知恵』(De antiquissima Italorum sapientia ex linguae latinae originibus eruenda), 1720年
『学問の方法』(De Nostri Temporis Studiorum Ratione), 1708年
* 『普遍法』(Diritto universale), 1720-22年

これらの著作は、歴史哲学、認識論、法哲学など多岐にわたり、彼の独創的な思想が展開されています。

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