清水幾太郎

清水幾太郎：戦後日本の知性と激動の時代を生き抜いた社会学者・評論家

清水幾太郎(1907-1988)は、20世紀日本の激動期を生き抜き、社会学者、評論家として多大な影響を与えた人物です。本稿では、その生涯と業績、特に戦前・戦後の言論活動、そして複雑な人物像について詳細に検討します。

生い立ちと学問への道

1907年、東京で生まれた清水は、祖父が江戸幕府旗本という家系に育ちました。獨協中学、旧制東京高校を経て、東京帝国大学文学部社会学科を卒業。在学中は、オーギュスト・コントの研究に没頭し、ドイツ語に加え、大学でフランス語を習得するなど、語学にも堪能でした。恩師である戸田貞三教授の影響を強く受け、後の社会学者としての道を歩むことになります。大学卒業後は東京帝国大学社会学研究室の副手としてキャリアをスタートさせました。

戦前・戦中の言論活動と複雑な立場

1930年代以降、清水は「唯物論研究会」「昭和研究会」などの活動に関与する傍ら、東京朝日新聞社学藝部専属、読売新聞社論説委員としてジャーナリストとしての道を歩み始めます。太平洋戦争中は海軍技術研究所嘱託を務めました。戦前の言論活動については、軍部への迎合と批判が入り交じった複雑なものでした。当時の言論統制下で、表向きは時勢に沿った文章を書きながらも、巧みな表現を用いて自身の考えを織り交ぜていたと評されています。この点については、後述するように様々な解釈があります。

戦後の平和運動と右傾化

戦後、清水は二十世紀研究所、平和問題談話会を設立。1949年から1969年まで学習院大学教授を務めました。戦後日本の平和運動、特に反米運動において中心的な役割を果たしますが、60年安保闘争を機に運動から離れ、著述活動に専念するようになります。この転向は、当時の進歩的知識人社会に大きな衝撃を与え、さまざまな論争を巻き起こしました。

代表的な著作と社会への影響

清水は、『社会学講義』で戦後日本の社会学体系確立に貢献したと評価されています。『論文の書き方』は、岩波新書のベストセラーとなり、長年にわたって多くの人々に読まれ続けています。その明快で洗練された文章は、高い評価を得ていました。また、反米的な立場から平和運動を批判した『日本よ国家たれ：核の選択』は、核武装論争を巻き起こし、大きな社会的な反響を呼びました。

多様な側面と評価

清水は、社会学者・評論家としての側面だけでなく、女性誌への寄稿や、銀座の街についての対談など、幅広い文化活動にも携わっていました。その多様な活動は、知識人としての枠を超えた存在感を示しています。しかし、その思想や行動は常に賛否両論を巻き起こし、評価は多様性に富んでいます。戦前の言論活動については、迎合と抵抗の両面を指摘する意見や、一貫してファシズム的であったとする意見など、様々な解釈が存在します。

晩年とその後

晩年は自伝『わが人生の断片』を連載するなど、自らの歩みを振り返りました。没後も、その著作は読み継がれ、特に東日本大震災後には『流言蜚語』が再版されるなど、現代社会においてもその思想は関心を集めています。清水幾太郎は、時代の変遷の中で揺れ動きながらも、常に自らの思想を貫き通そうとした、複雑で魅力的な人物でした。彼の生涯と業績は、20世紀日本の知的・社会史を理解する上で欠かせないものです。

主要著作

『社会学講義』
『論文の書き方』
『流言蜚語』
『社会的人間論』
『日本よ国家たれ：核の選択』
『わが人生の断片』

参考文献

竹内洋『メディアと知識人　清水幾太郎の覇権と忘却』
小熊英二『清水幾太郎　ある戦後知識人の軌跡』
* 庄司武史『清水幾太郎　異彩の学匠の思想と実践』

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