ジャン・フォートリエ

ジャン・フォートリエ（Jean Fautrier, 1898年5月16日 - 1964年7月21日）は、フランスの画家であり、彫刻家としても活動しました。彼は、20世紀美術において、タシスムという芸術運動の重要な担い手の一人として知られています。また、ジャン・デュビュッフェやヴォルスといった画家たちと共に、第二次世界大戦後の抽象芸術の先駆者として、その名を歴史に刻んでいます。

フォートリエはパリで生まれましたが、未婚の母の姓を名乗りました。幼少期は祖母に育てられ、祖母の死後、母と共にロンドンに移住しました。1912年、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツに入学しますが、そのアカデミックな教育に不満を抱き、スレード美術学校に転校します。しかし、そこでも同様の失望を経験しました。

彼はテート・ギャラリーでジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの作品に大きな影響を受けました。1922年にはサロン・ドートンヌで初めて作品が展示され、その2年後にはパリで個展を開催しました。この頃の彼の作風は、表現主義的な特徴を持つとされています。

1928年、フォートリエは絵画制作と並行して、ガリマール出版社が企画したダンテの『神曲』の挿絵制作に取り組みましたが、この企画は結局実現しませんでした。1933年までは絵画と彫刻の制作に専念していましたが、経済的な困難に直面したため、1934年から1936年の間はティーニュというリゾート地で、スキーのインストラクターやジャズクラブの経営者として生活しました。

1937年、フォートリエは創作活動を再開しました。1943年には22の彫刻作品を制作し、同年にはゲシュタポに逮捕され、パリからシャトネ＝マラブリーへと逃れました。そこで彼は連作『人質』を制作しました。この作品は1945年に発表され、ジャン＝ポール・サルトルなどの批評家から「最も戦後的な画家」という賛辞を受けました。戦後の彼の作品は、抽象性がより強くなり、作品のサイズも小さくなる傾向がありました。絵の具の塊を押しつぶしたような独特の表現は、「鉱物のような人間像」や「戦争を経験したことによって得られた冷徹な人間観」を表していると評されています。

フォートリエは1964年、シャトネ＝マラブリーで生涯を閉じました。彼の業績を称え、1989年にはパリ市立近代美術館で回顧展が開催されました。また、2005年には、ピエール・ジアナダ財団が主催する回顧展がスイスのマルティニーで開催されました。

彼の代表的な作品には、以下のようなものがあります。

Blue Lake II (1926)
Flayed Wild Boar (1927)
The Trees (1928)
Large Nude from the Front (1930)
Large Tragic Head (1942)
人質 (連作、1943- )
The Key (1949)
彼の美しい目 (1955)
永遠の幸福 (1958)
シーソーのシステム (1960)

フォートリエの作品は、その独特な質感と、戦争の悲劇を内包するような表現が、見る者に深い印象を与えます。彼の芸術は、20世紀の美術史において、重要な位置を占めています。

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