ジャン・ポーラン

ジャン・ポーラン：フランス文学界の黒幕

ジャン・ポーラン（Jean Paulhan, 1884年12月2日 - 1968年10月9日）は、20世紀フランスの文学、思想に多大な影響を与えた人物です。言語学者、作家、文芸評論家として多岐にわたる活動を展開し、アカデミー・フランセーズ会員にも選出されました。

生涯と背景

南仏ニームで哲学者の父フレデリック・ギヨーム・ポーランのもとに生まれたジャン・ポーランは、リセ・ルイ＝ル＝グランで学び、ソルボンヌ大学で文学と哲学の学士号を取得。教員資格を得るための勉強を始めましたが、中国語に興味を持ち始めました。

1907年、マダガスカル総督の依頼により、アンタナナリボの中等教育学校で教鞭を執りました。ここで彼は、マダガスカルの民衆詩「ハインテーニ」の研究に没頭し、言語研究への道を切り開きました。1911年には医学生サラ・プルサックと結婚し、二児をもうけましたが、後に離婚。ジェルメーヌ・ジャンヌ・ドータンと再婚しました。

第一次世界大戦では、歩兵として出征。負傷後、マダガスカル人兵士の指導にあたりました。戦後、『新フランス評論 (NRF)』に参加。1925年には編集長に就任し、多くの若手作家を発掘・育成しました。

第二次世界大戦中は、対独レジスタンス運動に参加。地下出版の『レットル・フランセーズ』を創刊し、言論による抵抗を続けました。戦後、『新フランス評論』を再刊し、文学界を牽引。美術評論家としても活躍し、ジャン・デュビュッフェら多くの芸術家を支援しました。

『新フランス評論』編集長として

ポーランは、アンドレ・ジッドらが創刊した文芸誌『新フランス評論』の編集長として、戦前・戦後の30年にわたり、同誌の方向性を決定づけました。同誌は、党派性にとらわれず、外国文学を積極的に紹介することで、国際的な影響力を持つようになりました。

編集長として、ポーランはジャック・シャルドンヌ、ジョー・ブスケ、ウジェーヌ・ダビ、ジャック・オーディベルティ、アンリ・ミショー、ミシェル・レリス、レーモン・クノー、ジャン・フォラン、ジャン＝ポール・サルトル、ルネ・エティアンブル、ロジェ・カイヨワら、多様な才能を持つ作家たちを支援しました。彼は「新人発掘の名人」として知られ、多くの作家が彼のもとから巣立っていきました。

レジスタンス運動への参加

第二次世界大戦中、フランスはナチス・ドイツの占領下に置かれ、言論の自由が奪われました。ポーランは、こうした状況下で、対独レジスタンス運動に身を投じました。

彼は、クロード・アヴリーヌ、ジャン・カスーらと知識人レジスタンス・グループ「アラン＝フルニエ友の会」を結成。その後、「人類博物館グループ」に参加し、非合法の機関紙『レジスタンス』の編纂にあたりました。1941年には逮捕されましたが、ドリュ・ラ・ロシェルの介入により釈放されました。

また、ポーランは、地下出版の週刊新聞『レットル・フランセーズ』を創刊。レジスタンス文学を牽引しました。彼は、反ナチズム知識人が集まるサロンを開き、地下出版社の仲介役も担っていました。

文学言語の研究

ポーランは、文学言語の研究にも力を注ぎました。マダガスカルでの経験から、言語と文化の関係に着目し、文学作品における言語の役割を分析しました。

代表作である『タルブの花』では、文学における恐怖政治をテーマに、言語と思想の関係を考察しました。彼は、言語は思想を伝えるだけでなく、思想を形成する力を持つと考えました。

晩年と遺産

ポーランは、1968年に83歳で亡くなるまで、文芸評論家、作家として精力的に活動しました。彼の死後も、その思想と業績は、フランス文学界に大きな影響を与え続けています。

ジャン・ポーランは、「フランス文学の黒幕」として、多くの作家や芸術家を支援し、20世紀フランス文学の発展に大きく貢献しました。彼の文学言語に関する研究は、現代思想にも影響を与えています。

主要著作

『メリナ族のハインテーニ』(1913)
『熱心な戦士』(1917)
『タルブの花』(1936)
『詩の鍵』(1945)
* 『O嬢の物語』序文 (1954)

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