ジャン＝ミシェル・ダマーズ

人物

ジャン＝ミシェル・ダマーズは、フランスの作曲家であり優れたピアニストでもありました。1928年 1月27日に生を受け、2013年 4月21日にその生涯を閉じています。彼の音楽は、20世紀後半の現代音楽が革新的な手法を追求する中で、あえて伝統的な新古典主義の枠組みに根ざし、美しい旋律と明快な形式感を追求した独自のスタイルを確立しました。

生涯

フランス南西部の都市ボルドーで生まれたダマーズは、著名なハープ奏者であった母親ミシュリーヌ・カーンの影響もあり、幼少期から非凡な音楽的才能を示していました。音楽教育は、まずエコールノルマル音楽院で基礎を学び、その後13歳という若さで名門パリ音楽院に進みます。ここでは、ピアノのアルフレッド・コルトー、作曲のアンリ・ビュッセル、そして和声と対位法のマルセル・デュプレといった、当時のフランス楽壇を代表する錚々たる大家たちから直接指導を受ける機会に恵まれました。

音楽院での学びは実を結び、1943年にはピアノ科で一等賞を得て首席で卒業するという輝かしい成績を収めます。この年には、後に作曲家オリヴィエ・メシアンの伴侶となるピアニスト、イヴォンヌ・ロリオも同時に首席卒業を果たしています。

若くして才能を認められたダマーズは、1947年にはカンタータ『そして美女は目覚めた（et la belle se réveilla）』でローマ賞を受賞し、作曲家としての地位を確固たるものとしました。この受賞を契機に、彼は作曲家およびピアニストとして活発な活動を展開していきます。同時に、後進の指導にも熱心に取り組み、音楽教育の分野でも重要な役割を担いました。特に、母校であるパリ音楽院の副院長を務めるなど、フランス音楽界の発展に大きく貢献しています。

音楽スタイルと評価

ダマーズの作品は、主に室内楽曲や様々な楽器のための器楽曲に焦点を当てています。彼が特に好んで用いた楽器としてはフルートが挙げられますが、母親がハープ奏者であった影響から、ハープを用いた作品も数多く残しています。

彼の音楽スタイルは、同時代に隆盛を極めた前衛的な現代音楽の潮流とは明確に一線を画していました。彼は無調や複雑な音響を追求するのではなく、ストラヴィンスキーやフランス六人組の流れを汲む新古典主義音楽を基礎とし、流麗で優美な旋律、明確な形式、そして洗練されたハーモニーを特徴とする音楽を創造しました。その作風は、しばしば「フランスのエスプリ」や「優雅さ」と評されます。

しかし、20世紀後半の音楽シーンにおいては、革新性や実験性が重視される傾向が強かったため、ダマーズのような伝統的な美しさを追求する音楽は、必ずしも主流の評価を得にくい状況が続きました。長らく彼の作品は一部の愛好家に知られる程度でしたが、近年に入り、複数の作品集がCDとして録音・発売されるなど、再評価の機運が高まっています。現代において、彼の音楽が持つ普遍的な美しさや、技巧的な巧妙さが改めて注目されています。

主な作品一覧

ダマーズは多岐にわたるジャンルに作品を残しましたが、特に室内楽や器楽曲の分野で重要な足跡を残しています。彼の主要作品には、以下のようなものが挙げられます。

舞台作品

そして美女は目覚めた（et la belle se réveilla）（1947年） - ローマ賞受賞作品

協奏曲

ピアノ協奏曲第1番（1949年）
ハープ協奏曲第1番（1951年）
ヴィオラ、ハープと弦楽オーケストラのための協奏曲（1990年）
フルート協奏曲（1993年）

器楽曲・室内楽曲

木管五重奏のための17の変奏曲（1951年）
フルートとピアノのための演奏会用ソナタ（1952年）
フルートとハープのためのソナタ（1964年）
サクソフォーン四重奏曲（1978年）
フルート三重奏のための田園組曲（1988年）
アルトサクソフォーンとピアノのための「ヴァカンス」（1990年）
フルート、オーボエ、クラリネットとピアノのための四重奏曲「ランソン・ウィルソンに」（1991年）
2つのフルートとピアノのための三重奏曲（1997年）
ペイザージュ〜フルートとピアノのための9つの小品

ピアノ曲

ピアノソナタ（1953年）
主題と変奏（1956年）
幻影（1968年）
8つの練習曲（1977年）
ソナチネ（1991年）
序奏とアレグロ（1992年） - ロン＝ティボー国際コンクール委嘱作品

ジャン＝ミシェル・ダマーズの音楽は、激動の20世紀を生きた作曲家でありながら、時代に流されることなく自身の信じる音楽美学を貫いた証として、今なお多くの人々に親しまれています。

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