ジャーヌ・バトリ

フランスのオペラ界で一時代を築いたメゾソプラノ歌手、ジャーヌ・バトリ（仏: Jane Bathori）は、1877年 6月14日にパリで生まれました。本名をジャンヌ＝マリー・ベルチエ（Jeanne-Marie Berthier）といい、1970年 1月25日に故郷パリでその生涯を閉じました。存命中、彼女はその才能と活動により、非常に名高い存在でした。

音楽のキャリア

バトリの音楽の道は、当初ピアノから始まりました。演奏会ピアニストを目指して研鑽を積んでいましたが、やがて声楽へと転向します。職業歌手としての第一歩を踏み出したのは1898年のこと。ラ・ボディニエール小劇場で開催されたポール・ヴェルレーヌを称える演奏会でのデビューでした。同年には、パリ音楽院管弦楽団演奏協会の大演奏会にも参加し、ガブリエル・フォーレの《ヴィーナスの誕生》やカミーユ・サン＝サーンスの《死者のためのミサ曲》といった重要な作品の上演に携わっています。オペラ歌手としてのデビューは、1899年から1900年にかけてのシーズン、ナントでのことでした。

1900年代初頭、バトリは自身より30歳年上のピエール＝エミール・エンジェル（1847年生）に師事しました。彼は後に彼女の夫となりますが、結婚は1905年、あるいは1908年とする説があります。

近代音楽の擁護者

ジャーヌ・バトリのキャリアにおいて特筆すべきは、新しい音楽、特に同時代のフランス音楽の普及と擁護に注いだ情熱です。1917年にヴィユ・コロンビエ劇場（ヴュー・コロンビエール劇場）の監督に就任すると、彼女は当時のフランス楽壇で頭角を現しつつあった若手作曲家たちの作品を積極的に紹介しました。ルイ・デュレ、アルテュール・オネゲル、ダリウス・ミヨー、ジェルメーヌ・タイユフェール、フランシス・プーランク、ジョルジュ・オーリックといった面々が集まり、彼らのコンサートが開催されました。こうした活動は、後に「フランス6人組」として知られることになる作曲家たちの結びつきを強めるきっかけを作ったと言われています。

バトリは、メゾソプラノ歌手として、近代フランス歌曲の普及に尽力しました。モーリス・ラヴェルの連作歌曲集《博物誌》の初演にも関わったことはよく知られています。また、「六人組」が注目を集め始めた1920年代初頭には、彼らの主要作品を積極的に演奏し、その評価確立に貢献しました。特に、1902年 1月31日には、ルイ・デュレの《海底の春（Printemps au fond de la mer）》の初演を行っています。

国際的な活動と晩年

第一次世界大戦後は、活動の場をヨーロッパ各地の大劇場へと広げ、イタリアのスカラ座にも出演するなど、国際的な名声を高めました。1930年代にはアルゼンチンのコロン劇場に出演するなど、南米でも活躍しました。第二次世界大戦中にナチス・ドイツがフランスへ侵攻すると、彼女は滞在していたブエノスアイレスに留まることを選びました。

戦後フランスへ帰国したバトリは、後進の指導に力を注ぎました。高齢となり、歌手としては引退したものの、ピアニストとしては演奏活動を続けました。1945年にはマドレーヌ・グレイの伴奏を務めています。また、彼女は音楽に関する著作も残しており、『ドビュッシーが自作で教える歌唱法』などが知られています。

1970年 1月25日、ジャーヌ・バトリは92歳で永眠し、パリのペール・ラシェーズ墓地に埋葬されました。

評価

ジャーヌ・バトリは、その卓越した歌唱力に加え、近代フランス音楽の擁護者、特に「フランス6人組」の作品普及における功績によって、後世に名を残しています。彼女の芸術と貢献を称え、1991年3月にはドーン・アップショーがシャンゼリゼ劇場で「ジャーヌ・バトリへのオマージュ」と題するコンサートを開催しました。そのライブ音源はCD化され、彼女の遺した業績は今なお多くの人々に伝えられています。

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