ジュール・デュピュイ

ジュール・デュピュイ：土木技術者と経済学者の両面で輝いた人生

1804年、イタリアのフォッサーノに生まれたジュール・デュピュイは、10歳の時に家族と共にフランスに移住。ヴェルサイユで学び、物理学賞を受賞するなど、幼少期から優れた才能を示しました。その後、国立土木学校で土木技術者としての道を歩み始めます。

フランスの大規模公共事業を担う土木公団での活躍を経て、各地で重要な役割を担うようになります。1843年には、フランスの道路体系に関する功績によりレジオンドヌール勲章を受賞し、まもなくパリに移住しました。パリでは1848年の洪水管理研究や、パリ下水道システムの構築を監督するなど、都市インフラ整備に大きく貢献しました。1866年、パリでその生涯を閉じます。

経済学への多大な貢献：限界効用論の先駆者

デュピュイの最大の功績は、経済学への貢献にあります。フランス国立工科学校と土木公団には独自の経済学の伝統があり、公共事業への多額の税金支出に対する批判に応えるため、土木技術者たちは経済学にも精通していました。デュピュイはその中でも卓越した存在でした。

1844年、橋の最適通行料に関する論文を発表。この中で、限界効用の逓減曲線を導入しました。これは、財の消費量が増えるほど、その限界効用は減少するという考え方です。通行料の低下は、より多くの人が橋を利用する結果につながる一方、交通量が増えれば、通行料を支払う人の意欲は低下します。

この限界効用逓減の概念を、下方へ傾斜する需要曲線と同一視したのです。これは、経済学者が限界効用から需要理論を導き出した最初の例であり、それまで理論的裏付けのなかったクールノーの需要曲線に、明確な理論的根拠を与えました。

さらに、需要曲線の下部、価格の上部の面積を「相対的効用」と定義し、価格変動による福祉効果の尺度として用いました。そして、価格が0になれば公共福祉が最大化されると結論づけました。これは後の「消費者余剰」の概念の先駆けとなる重要な成果です。

ただし、デュピュイの理論には限界があります。市場の需要は集計値であるのに対し、限界効用は個人に特有であるという事実を十分に考慮していませんでした。また、供給曲線も登場せず、限界費用0を想定したと解釈できる部分も見られます。価格差別や独占についても論じていますが、厳密な論証には至っていません。

パリ下水道整備への貢献

経済学者としての評価が高い一方で、デュピュイはオスマン市政下でのパリの上下水道整備にも大きく貢献しました。オスマンとは意見の相違もあったものの、維持管理用の歩道を備えたパリ大下水道の最初の建設工事を指揮。この大下水道は「デュピュイの洞窟」と呼ばれることもありました。

まとめ

ジュール・デュピュイは、土木技術者としてフランスの公共事業に貢献しただけでなく、限界効用論、消費者余剰といった経済学の重要な概念に先駆的な貢献をした人物です。彼の業績は、経済学のみならず、都市インフラ整備の分野にも大きな影響を与えました。自由放任経済学の擁護者でもあり、経済発展の能力分析や公共工事による繁栄の測定にも取り組むなど、多岐にわたる活躍は、現代経済学への礎を築いたと言えるでしょう。彼の業績は、経済学史において重要な位置を占めています。

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