ジュール・ロマン

ジュール・ロマン：ユナニミスムと大河小説の巨匠

ジュール・ロマン（1885年-1972年）は、20世紀を代表するフランスの作家の一人です。本名ルイ・アンリ・ジャン・ファリグール。詩人、劇作家としても活躍し、独自の文学運動「ユナニミスム（一体主義）」を提唱したことで知られています。

オート＝ロワール県に生まれたロマンは、幼少期をパリで過ごしました。コンドルセ高等中学校を経て高等師範学校に進学し、哲学の教授資格を取得。卒業後は各地で教職に就きながら、早くから創作活動を始めました。高等中学校時代に雑踏の中で感じた一体感を、後のユナニミスムへと昇華させていきます。

1906年には最初の小説『新しい町』を発表。同時期に、ジョルジュ・デュアメルらと共に、パリ郊外のクレテイユ僧院で理想主義的な共同生活を送った「アベイ派」に深く関与しました。この経験が、彼の文学観に大きな影響を与えたことは間違いありません。ユナニミスムに基づいた詩集『一体生活』（1908年）、小説『ある男の死』（1911年）、『仲間たち』（1913年）などを発表し、作家としての地位を確立していきます。

第一次世界大戦の勃発は、ロマンの関心を政治問題へと向けさせました。「国民総動員」的法律への反対運動に参加し、『今日の問題』（1931年）、『ヨーロッパの問題』（1933年）といった評論を発表。エドゥアール・ダラディエの急進社会党に接近し、人民戦線を支持するなど、積極的な政治姿勢を示しました。スペイン内戦やナチス・ドイツへの宥和政策にも反対するなど、強い反ファシズムの姿勢を貫きました。

ロマンの代表作であり、最大の功績と言えるのが、全27巻からなる大河小説『善意の人々』（1932年-1946年）です。オーストリア＝ハンガリー帝国によるボスニア・ヘルツェゴビナの併合（1908年）から第二次世界大戦後までの時代を舞台に、当時の社会の広大な光景を政治、経済、思想など多角的な視点から描き出しています。多くの登場人物が登場しますが、ユナニミスムの思想に基づき、集団や総体こそが重要であり、個々の登場人物は全体の一部に過ぎないと表現されています。複数の筋が並列的に展開する構成は、ロジェ・マルタン・デュ・ガールの『チボー家の人々』と比較されることも多く、かつてギネスブックに「最も長い小説」として掲載されたこともあります。特に、第一次世界大戦中のヴェルダンの戦いを描いた15巻「ヴェルダン序曲」と16巻「ヴェルダン」は高い人気を誇ります。

国際ペンクラブ会長（1936年-1941年）も務めたロマンは、第二次世界大戦の勃発とともにアメリカ合衆国へ亡命。ラジオを通じて反ナチズムを訴えました。その後メキシコに移り、在ラテンアメリカ・フランス人協会を組織するなど、亡命生活の中でも精力的に活動しました。『善意の人々』の出版もアメリカで継続されました。

戦後、シャルル・ド・ゴール首相やジョルジュ・デュアメルの推薦を受け、アカデミー・フランセーズ会員に選出（1946年）。帰国後はアルジェリア独立を支持するなど、政治的な発言も続けました。1970年には回想録『友情と出会い』を発表。1972年、パリで没しました。レジオンドヌール勲章グラントフィシエ、芸術文化勲章コマンドゥール、教育功労章コマンドゥールなど、数々の栄誉に輝きました。

ロマンの作品は、小説、詩、戯曲、評論など多岐に渡り、そのすべてにユナニミスムの思想が反映されています。彼の作品群は、20世紀フランス文学、ひいては世界文学史において、重要な位置を占めています。彼の生涯と作品は、今もなお多くの読者や研究者によって読み解かれ、高く評価されています。

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