ジュール・ロラン

ジュール・ロラン

ジュール・ロラン（Jules Laurens、1825年7月27日 - 1901年5月5日）は、19世紀フランスで活躍した画家です。特に、中東の風景や文化を描いた「オリエンタリズム」と呼ばれる分野で知られ、その写実的な描写は当時の西洋社会に大きな影響を与えました。

生い立ちと教育

ロランはフランス南部のヴォクリューズ県カルパントラで生まれました。音楽家で画家でもあった兄、ジャン＝ジョゼフ・ボナバンチュール・ロランの影響を受け、幼い頃から芸術に親しんでいました。12歳の時、兄が活動していたモンペリエに移り住み、モンペリエの美術学校で絵画の基礎を学びました。ここでは、後にアカデミックな画家として名を馳せるアレクサンドル・カバネルらと共に学んでいます。1842年から1846年にかけては、パリ国立高等美術学校（エコール・デ・ボザール）に進み、さらに高名なポール・ドラローシュの工房でも研鑽を積みました。1845年には権威あるローマ賞に挑戦しますが、残念ながら受賞には至りませんでした。

探検への参加

画家として活動を始めたロランは、地理学者で探検家のグザヴィエ・オメール・ド・エルと出会い、彼の探検に画家として同行する機会を得ました。まず南西ヨーロッパやギリシャの調査に加わった後、1847年からはオメール・ド・エルと共に黒海を渡り、トルコのトラブゾンから陸路ペルシャ（現在のイラン）を目指す、より大規模な探検へと乗り出しました。これはフランス政府の支援を受けた調査であり、画家としてその記録を残すことがロランの重要な任務でした。

旅の終焉と帰国

しかし、1848年8月末、一行がペルシャの古都エスファハーンに滞在中、リーダーであるオメール・ド・エルが病のため急逝するという悲劇に見舞われました。これにより、探検調査は無念の中断を余儀なくされました。ロランは、オメール・ド・エルの研究報告書や収集品に加え、自身が旅の途上で精力的に描き留めたペルシャの遺跡、風景、人々の生活を描いた数百点に及ぶ膨大なスケッチ、さらに当時のペルシャを支配していたガージャール朝時代の美術品などを携え、単身フランスへと帰還しました。

帰国後の活動

1850年から1880年にかけての約30年間は、主にパリを拠点に画家としての活動を展開しました。この時期、ロランは毎年サロンなどの主要な展覧会に作品を発表し、画家としての地位を確立していきました。彼の作品は、探検で得た豊富な素材をもとに、中東の異国情緒あふれる風景や、そこで暮らす人々の姿を詳細かつ写実的に捉えたもので、当時の人々の関心を集めました。また、帰国後の経験を生かし、多くの書籍の挿絵も手掛けました。特に、オメール・ド・エルの未亡人によって編纂・出版された探検記『Voyage en Turquie et en Perse（トルコおよびペルシャへの旅）』（1856-1859年）では、自らのスケッチをもとに、その詳細な挿絵を担当し、当時の人々が知ることの少なかった中東の姿を視覚的に伝えました。

晩年と文筆活動

1880年、ロランはパリを離れて南仏プロヴァンスに移り住みました。画家としての活動に加え、この頃から文筆活動にも力を入れ始めました。兄であるジャン＝ジョゼフ・ボナバンチュール・ロランの伝記を執筆・出版したほか、これまでの長い芸術家人生を通じて知り合った著名な芸術家たちとの思い出を綴った回想録なども出版しています。ジュール・ロランは、探検家としての貴重な経験と、画家としての確かな技術によって、19世紀のオリエンタリズム絵画において重要な役割を果たした芸術家と言えるでしょう。

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