ジョゼフ・リスター

ジョゼフ・リスター：近代外科手術の父

ジョゼフ・リスター(1827-1912)は、[イギリス]]を代表する外科医であり、近代外科手術の父とも称される人物です。メリット勲章勲爵士、王立協会フェロー、枢密顧問官を歴任した彼の最大の功績は、[[フェノール]を用いた画期的な消毒法の開発にあります。

当時、手術後の感染症は極めて深刻な問題であり、小さな手術でも死亡率が高かった時代です。ルイ・パスツールによる細菌学の進歩や、イグナーツ・ゼンメルワイスによる医療従事者の手洗い重要性の指摘などの影響を受けつつも、イギリスではまだこれらの考え方は主流ではありませんでした。しかし、リスターはそれらの研究成果に着目しました。

リスターは、手術後の化膿の原因が細菌による汚染であると結論づけました。そして、石炭酸による消毒法を考案、実践しました。1865年には、開放骨折の少年を石炭酸を染み込ませた包帯で治療し、成功を収めました。この成功をきっかけに、彼は研究を続け、1867年には医学雑誌『ランセット』に論文を発表しました。

しかし、リスターの功績はすぐに認められたわけではありません。当時のイギリス医学界の権威からは、その方法に懐疑的な見方が強く、リスター自身も当初は名もない外科医でした。特に産婦人科医のジェームズ・シンプソンからは強い反対を受けました。シンプソンは針圧止血法の大家であり、リスターが主張する石炭酸処理した糸による血管結紮法とは相容れない部分があったことが、その反対の理由の一つとして考えられています。

それでもリスターは、地道な臨床研究を続けました。彼は石炭酸の術野への噴霧法を考案し、さらに1868年には、動物の腸から作られた糸をクロム酸で処理した耐久性のある吸収糸を開発しました。この糸は現在も「クロミックカットグット」として世界中で使用されています。

これらの革新的な手法により、リスターは無菌手術の基礎を築きました。1869年にはエジンバラ大学の教授となり、そこで彼の消毒法は敗血症の発生率を劇的に減少させました。やがて彼の業績は認められ始め、1883年にはヴィクトリア女王から準男爵の称号を授与されました。

さらにリスターは研究を続け、空気中の菌の落下はごくわずかで、接触感染が主要な問題であることを解明しました。そのため、1887年には石炭酸の術野への噴霧法を中止し、より現代の無菌操作に近い手法へと改善しました。

彼の業績は広く認められ、1902年にはエドワード7世の虫垂炎手術の執刀医に指名されるほどとなりました。これは、当時虫垂炎の手術ですら死亡率が高かったことを考えると、彼の高い信頼性を示しています。1912年に肺炎で亡くなると、国民葬で送られ、ウェストミンスター寺院に埋葬されました。

リスターの功績は、近代外科手術の発展に計り知れない貢献を果たしました。彼の開発した消毒法は、手術後の感染症を劇的に減らし、より安全な手術を可能にしました。彼の名は、リステリア菌や口腔消毒薬のリステリンという商標名にも残っていますが、彼はこれらの製品とは無関係です。彼の偉業は、医療の歴史に永遠に刻まれています。

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