リステリア

リステリア (Listeria) について

リステリアとは、リステリア属に属する細菌の総称です。リステリア属には10の種が含まれていますが、中でもリステリア・モノサイトゲネス (L. monocytogenes) は人に病原性があり、医学分野では特にこの菌種を指します。

リステリアという名前は、消毒法を開発したイギリスの外科医、ジョゼフ・リスターに由来します。

リステリア属の特徴

リステリア属は、以下の特徴を持つグラム陽性桿菌です。

通性嫌気性 (酸素があってもなくても生育可能)
無芽胞 (芽胞を形成しない)
カタラーゼ陽性
低温 (4℃) での増殖が可能
耐塩性 (6%以上の食塩濃度に耐える)
運動性がある

これらの特徴から、他のグラム陽性無芽胞桿菌と区別されます。

リステリアは自然界に広く分布しており、鳥類、魚類、昆虫、人や動物の糞便や乳、食品中、土壌など、様々な場所で常在菌として存在しています。

リステリア・モノサイトゲネス (L. monocytogenes)

リステリア・モノサイトゲネスは、リステリア症の原因となる病原体です。この菌は1926年にE.G.D. Murrayによって発見されました。大きさは約0.5x1 µmで、通性嫌気性～微好気性の短桿菌です。

リステリア・モノサイトゲネスは通性細胞内寄生性菌であり、感染した細胞内でアクチンを利用して細胞質内を移動し、隣接する細胞に侵入するという特徴を持っています。汚染された乳製品や食肉などを介して人に感染し、リステリア症を引き起こすほか、ヒツジやウシなどの家畜に感染して流産や敗血症の原因となる人獣共通感染症の病原体でもあります。

細菌学的特徴

リステリア・モノサイトゲネスは、菌体の周囲に4本の鞭毛を持ち、これを使って水中などを運動します。ただし、この鞭毛は25℃で培養した場合には観察されますが、37℃ではしばしば失われます。

ヒツジまたはウサギの血液寒天培地では、弱いβ溶血性を示します。この溶血は黄色ブドウ球菌によるCAMP試験によって増強され、リステリア・モノサイトゲネスを同定する上で重要な手がかりとなります。この溶血性は、リステリオリジンOという溶血素によって引き起こされます。

細胞内侵入

リステリアは、感染した宿主の細胞内と細胞外の両方で増殖できる通性細胞内寄生菌です。菌体表面のInlAやInlBを介して腸上皮細胞や肝細胞などに付着し、ファスナー機構と呼ばれるエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれます。その後、リステリオリジンOによってエンドソームから脱出し、細胞質内に侵入します。リステリオリジンOは、マクロファージなどの食細胞による殺菌機構から逃れる際にも利用されます。

細胞質内に侵入したリステリアは、栄養を吸収して分裂し、急激に増殖します。また、アクチンを利用して細胞質内を移動します。菌体の片端でアクチンを重合させて足場にし、推進力を得て移動する様子が彗星の尾のように見えるため、この現象はコメットテイルやアクチンロケットなどと呼ばれます。アクチンロケットによる細胞質内の移動は、リステリア以外では赤痢菌やリケッチアにも見られます。リステリアは、感染した細胞内を移動するだけでなく、アクチンロケットを隣接する細胞に伸ばして貫入し、感染を広げることができます。

病原性

感染源

リステリア・モノサイトゲネスは、食肉や乳製品、野菜などにも存在し、これらを介して経口的に人に感染することがあります。以前はペットからの感染が疑われていましたが、1980年代にコールスローの原料となったキャベツからの感染が明らかになって以来、食品からの感染ルートが重要視されるようになりました。

ただし、健常者での発症がまれであることや、発症までの期間が数時間～数週間と幅があることから、原因となった食品の特定に至らない場合も少なくありません。食肉のリステリア汚染状況の調査によれば、食肉用の動物の保菌率は低いものの、食肉加工後の汚染率は比較的高く、加工施設内での二次汚染が疑われています。

臨床症状

リステリア症は、典型的な急性胃腸炎症状を示さないことが特徴です。潜伏期間は平均すると数十時間ですが、患者の健康状態、摂取菌量、菌株の種類などによって大きく左右されます。健常者が発病することはまれですが、免疫力が低下している人や妊婦が感染した場合には、重篤な疾患となることがあります。

主な症状としては、38～39℃の発熱、頭痛、悪寒、嘔吐などが挙げられます。重症化すると脳脊髄膜炎を起こし、意識障害や痙攣を引き起こすこともあります。髄膜炎や敗血症は、一般的な細菌感染によるものと鑑別が困難であり、髄液の検査所見にも特徴的なことがないため、患者の髄液、血液、臓器などからリステリア・モノサイトゲネスを検出することが診断確定に不可欠です。

免疫力が低下している人では、髄膜炎や敗血症を発症することがあります。妊婦の場合は、胎盤を介して胎児に感染し、早産、流死産、胎児敗血症、新生児髄膜炎、新生児敗血症などの原因となることがあります。

治療には抗生物質が使用されます。

食品衛生の観点から

リステリアは、食品の味や匂いを変えずに、低温や塩分濃度の高い環境でも増殖する可能性があります。近年、冷蔵輸送や長期冷蔵保存が増えたことが、リステリア症の発生の一因となっていると考えられています。

冷蔵庫での保存を過信せず、長期間冷蔵保存でき、加熱せずに食べられる食品には注意が必要です。リステリア菌は熱に弱く、食品衛生法に規定された条件で加熱すれば安全性が確保されます。食中毒が疑われる場合は、速やかに保健所に届け出ましょう。

規格基準

2014年12月25日には、ナチュラルチーズの成分規格にリステリア・モノサイトゲネスに関する試験項目が追加されました。非加熱食肉製品やナチュラルチーズを対象として、リステリアが検体1gあたり100以下であることが基準とされています。

主な出来事

2024年、アメリカでリステリア感染が流行し、59人が入院、10人が死亡しました。アメリカ農務省は感染源を特定し、精肉加工流通業者に肉製品の回収を命令しました。

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