ジョン・ギルバート (俳優)

ジョン・ギルバート

ジョン・ギルバート（本名ジョン・セシル・プリングル、別名ジャック・ギルバート）は、1897年7月10日にアメリカ合衆国ユタ州ローガンで生まれた俳優です。特にサイレント映画の黄金期において、その端正な容姿で観客を熱狂させた二枚目スターとして広く知られています。彼の生涯は、ハリウッドの光と影、時代の変遷に翻弄された一人のスターの物語として語り継がれています。

キャリアの始まりと飛躍

芸能一家に生まれたギルバートは、早くから映画界への道を歩み始め、1915年に俳優としてデビューを飾りました。その才能と容姿はすぐに注目を集め、特に当時絶大な人気を誇った女優メアリー・ピックフォードが自身の主演作『想い出の丘へ』の相手役に彼を指名したことは、彼のキャリアにおける大きな転機となりました。これにより知名度が飛躍的に向上し、ハリウッドでの地位を確立していきました。

スターダムへの到達

知名度の上昇に伴い、ギルバートは映画会社との契約を結び、1921年にはフォックス・フィルムと3年間の契約を交わしました。さらに1924年には、当時の大手スタジオであったメトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）へと移籍しました。MGMでは『ビッグ・パレード』のような大作映画に次々と起用され、その人気は頂点に達します。彼は当時の人気スターであり、「ラテンの恋人」と呼ばれたルドルフ・ヴァレンティノと肩を並べるほどの存在となり、サイレント映画界における男性スターの代名詞的存在となりました。

グレタ・ガルボとのロマンス

ギルバートのキャリアの中でも特に語られるのが、スウェーデン出身の神秘的な女優、グレタ・ガルボとの関係です。1926年に共演した映画『肉体と悪魔』での二人の息の合った演技は観客を魅了し、私生活でも恋愛関係にあったとされています。実際に結婚には至らなかったものの、銀幕内外での彼らのロマンスは多くのファンを惹きつけ、「最高の美男美女カップル」として熱狂的に支持されました。この共演は、彼のキャリアの輝かしい一頁を飾るものとなりました。

トーキー時代の到来と苦悩

しかし、映画界に大きな変革の波が押し寄せます。サイレント映画から音声付きのトーキー映画へと主流が移り変わる中で、多くのサイレントスターが適応に苦しみました。ギルバートもその一人であり、トーキー時代の到来は彼の華々しいキャリアに暗い影を落とすことになります。彼の初めてのトーキー出演作とされる『彼の栄光の夜』が公開されると、観客は彼のイメージとはかけ離れた声に戸惑いました。その甲高い声は、彼のスクリーン上の強靭な男性像とは一致せず、劇場では失笑が漏れたと言われています。この出来事がきっかけで、彼の人気は急速に下降線をたどることとなりました。

再起への試みと悲劇的な晩年

人気の低迷は、仕事の激減へと直結しました。かつての輝きを失いかけたギルバートは、何とかキャリアを立て直そうと試みます。その一つが、かつての恋人であり、トーキーへの適応に成功していたグレタ・ガルボとの再共演でした。1933年に公開された『クリスチナ女王』で、二人は実に5年ぶりにスクリーンで顔を合わせました。この作品にギルバートは再起を賭けましたが、残念ながらトーキーに完全に順応したガルボと比べ、彼の適応の遅れは明らかであり、この作品をもってしても彼のキャリアがかつての輝きを取り戻すまでには至りませんでした。その後、仕事はほとんど途絶え、孤立感を深めていったとされています。悲劇的なことに、彼はアルコールに依存するようになり、1936年1月9日、アルコール中毒による心臓発作のため、わずか38歳でその短い生涯を終えました。彼の遺産は約25万ドルとされ、その大部分は最後の妻であるヴァージニア・ブルースと、彼女との間に生まれた一人娘、スーザン・アン・ギルバートが相続しました。

後世への影響

ジョン・ギルバートの劇的な生涯は、その後も多くの人々の記憶に残りました。特にサイレント映画からトーキーへの過渡期におけるスターの光と影を描いた作品において、彼の人生は重要なインスピレーション源となっています。例えば、2011年のミシェル・アザナヴィシウス監督によるサイレント映画へのオマージュ作品『アーティスト』に登場するジョージ・ヴァレンティンのキャラクターや、2022年のデミアン・チャゼル監督作『バビロン』の主人公ジャック・コンラッドは、いずれもジョン・ギルバートの波乱万丈なキャリアと人生をモデルにしたものと言われています。彼は短い人生の中で、サイレント映画の頂点を極めながらも、時代の変化に抗えず失墜したスターの典型として、ハリウッドの歴史にその名を刻んでいます。

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