ジョン・バグネル・ベリー

ジョン・バグネル・ベリー：歴史を科学として捉えた碩学

ジョン・バグネル・ベリー（John Bagnell Bury, 1861年10月16日 - 1927年6月1日）は、アイルランドが生んだ傑出した歴史家、古典学者、中世ローマ史研究者、そして文献学者でした。彼は、歴史研究を単なる文学の一分野ではなく、科学として捉えるという信念を生涯持ち続けました。

生涯

ベリーは、アイルランドのモナハン県で生まれ育ちました。父親は聖公会の教区牧師であり、両親から প্রাথমিক শিক্ষাを受けた後、ロンドンデリーのFoyle Collegeを経て、ダブリンのトリニティ・カレッジに進学しました。トリニティ・カレッジでは、古典学の奨学生に選ばれるなど、早くからその才能を発揮しました。1885年にはフェローとなり、研究者としてのキャリアをスタートさせました。

1893年、トリニティ・カレッジで近代史の教授に就任。同時にギリシア語の欽定講座担当教授も務め、9年間教鞭をとりました。1902年には、ケンブリッジ大学で近代史の欽定講座担当教授となり、その手腕を発揮しました。また、聖パトリックの伝記研究においても先駆的な業績を残しています。

晩年はケンブリッジ大学で教鞭を執りながら、スティーヴン・ランシマン卿など、後進の指導にもあたりました。ランシマンはベリーを「最初で最後の学生だった」と回想しています。当初、非社交的だったベリーはランシマンにそっけなく対応しましたが、ランシマンがロシア語を読めることを知ると、ブルガリア語の記事の編集を任せ、師弟関係が始まりました。

ベリーは、65歳でローマで亡くなるまでケンブリッジ大学の教授を務めました。彼の遺体は、ローマのプロテスタント墓地に埋葬されています。弟のロバート・グレッグ・ベリーもまた、アイルランドの牧師、古典学者、文献学者であり、プラトンやセクストス・エンペイリコスの著作を英訳しています。

業績

ベリーの著作は、古代ギリシアから19世紀のローマ教皇まで、幅広い時代を網羅しており、その内容は学術的でありながらも一般読者にも理解しやすいものでした。彼は特に、エドワード・ギボン以降、英語圏の歴史家たちによってほとんど顧みられることのなかったビザンツ帝国の歴史研究を再興したことで知られています。ベリーはビザンツ史をローマ史の一部と捉え、その重要性を強調しました。1911年には、ブリタニカ百科事典第11版に寄稿し、自身も項目として立項されました。また、1919年には、フランク・アドコックらとともに、The Cambridge Ancient Historyの編纂にも携わりました。

科学としての歴史

ベリーは、歴史研究を「科学」として捉えるという信念を強く持っていました。1902年、ケンブリッジ大学での就任講演において、彼は歴史を「文学」の一ジャンルではなく「科学」であると宣言しました。彼は、歴史的事実は地質学や天文学的事実と同様に、文芸のための材料を提供しうるが、歴史家のつとめは、人間社会の物語に文学的な装いを施すことではないと主張しました。

ベリーは、歴史を科学として捉えるという立場から、歴史叙述における物語の必要性について疑問を呈しました。彼は、ドイツの歴史家レオポルト・フォン・ランケの「発生した通りに歴史を伝える」という思想に共鳴し、客観的な事実の記述こそが歴史研究の核心であると信じていました。ベリーは、「歴史はそれ自体単純な科学なのであり、それ以下でもそれ以上でもない」と主張し、その信念を貫きました。

無知に訴える論証と立証責任

著書「History of Freedom of Thought」において、ベリーは、神学的教義を拒否することが正当化されないという主張に対し、「立証責任は否定するものに課せられているのではない」と反論しました。彼は、反証不可能な主張であっても、信じるべき理由がない場合は受け入れる必要はないと主張しました。

主要著作

The Odes of Pindar
The Nemean Odes of Pindar (1890)
The Isthmian Odes of Pindar (1892)
Rome
A History of the Later Roman Empire from Arcadius to Irene (2 vols.) (1889)
A History of the Roman Empire From its Foundation to the Death of Marcus Aurelius (1893)
A History of the Eastern Roman Empire from the Fall of Irene to the Accession of Basil I (A. D. 802-867) (1912)
A History of the Later Roman Empire from the Death of Theodosius I to the Death of Justinian (1923)
The Invasion of Europe by the Barbarians (1928)
The Life of St. Patrick and His Place in History (1905)
History of the Papacy in the 19th Century (1864–1878) (1930)
Greece
A History of Greece to the Death of Alexander the Great (1900)
The Ancient Greek Historians (Harvard Lectures) (1909)
The Hellenistic Age: Aspects of Hellenistic Civilization (1923)
Philosophical
A History of Freedom of Thought (1913)
The Idea of Progress: An Inquiry into Its Origin and Growth (1920)

ジョン・バグネル・ベリーは、歴史を科学として捉え、客観的な記述を追求した偉大な歴史家でした。彼の業績は、今もなお多くの研究者に影響を与え続けています。

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