ジョン・フォード (劇作家)

ジョン・フォード：ジャコビアン期からカロライン期を彩った劇作家

[ジョン・フォード]は、イングランドのデヴォン州イルシントン出身の劇作家、詩人です。ジャコビアン期からカロライン期にかけて活躍し、その劇的な才能で知られています。彼の生涯には謎が多く、特に晩年は不明な点が多いですが、残された作品群は、当時の社会や人間の心の闇を深く映し出す貴重な資料となっています。

生い立ちと初期の経歴

1586年4月17日、イルシントン教会で洗礼を受けたフォードは、裕福な地主の家に生まれました。父はトマス・フォード、母はエリザベス・ポパムで、イルシントン教区のバグトーの地所を所有し、一族の屋敷を構えていました。フォードは若い頃に勉学のために家を離れましたが、その詳細については不明な点が多く残されています。1601年にはオックスフォード大学エクセター・カレッジに入学した記録が残っていますが、それが彼自身であるかについては確証がありません。その後、法律を学ぶためミドル・テンプルに入学しますが、資金難のために一時退学を余儀なくされています。

ミドル・テンプル在学中、あるいは退学後、フォードは劇作家としての道を歩む前に、詩や散文エッセイなどの作品を執筆していました。パトロン獲得を狙った弔辞や、デンマーク国王の訪問を題材にしたパンフレットなども残されています。これらの初期の作品は、彼の文学的才能を垣間見ることができ、後の劇作への土台となった可能性が高いでしょう。

劇作家としてのキャリア

1620年頃からは劇作活動が活発化し、トマス・デッカーやウィリアム・ロウリーといった著名な劇作家との共作も手がけています。徐々に独自のスタイルを確立し、1620年代後半には独立した劇作家として活躍するようになりました。

フォードの作品は、人間の情念や道徳的葛藤を深く掘り下げたもので、個人や社会における倫理的な問題を鋭くえぐり出しています。特に異常心理や、死への執着といった、当時の社会ではタブーとされたテーマにも果敢に取り組みました。小田島雄志は、フォードの作品を「死へのダイヴィング」と評しており、その劇的な表現力と深遠なテーマが注目を集めています。また、彼はロバート・バートンの『メランコリーの解剖』の影響を受けていたと推測されており、フォードの創作に暗い影が落とされているとも言えるでしょう。

代表作と作品群

フォードの代表作は、近親相姦をテーマにした悲劇『あわれ彼女は娼婦』（'Tis Pity She's a Whore）です。この作品は、1633年に刊行され、衝撃的な内容にもかかわらず、現在でもイングランド演劇の古典的名作として高く評価されています。この作品は、数度に渡り映画化され、様々な解釈がなされています。

他に、有名な作品として『エドモントンの魔女』（The Witch of Edmonton）、『心破れて』（The Broken Heart）、『恋の犠牲』（Love's Sacrifice）、『パーキン・ワーベック』（Perkin Warbeck）などがあります。多くの共作作品や、現在では失われた作品も多く存在し、フォードの全貌解明は困難な課題です。

晩年と謎

フォードは1639年までは生存していたことが分かっていますが、その後の消息は不明です。遅くとも1653年までに亡くなったと考えられていますが、確証はありません。彼の晩年と死因は、依然として謎に包まれています。

詩作

劇作の他に、詩作品も残されています。特に「Beauty's Beauty」は、オーストラリアの作曲家ジョン・ゴフによって作曲され、音楽作品としても知られています。

結論

ジョン・フォードは、ジャコビアン期からカロライン期にかけて活躍した才能豊かな劇作家です。彼の作品は、人間の心の深淵を鋭くえぐり出し、現代においても多くの読者や観客を魅了し続けています。彼の生涯にまつわる謎や、失われた作品の存在は、私たちに想像力を掻き立て、さらなる研究を促すものです。今後も、彼の作品を通して、当時の社会や人間の心の奥底を探っていくことが重要です。

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