ジョン・ブラッドベリー

ジョン・ブラッドベリー (1768-1823) は、スコットランド出身の植物学者にして綿織物業者という、珍しい経歴を持つ人物でした。彼が歴史に名を刻んだのは、19世紀初頭のアメリカ大陸における植物探査と、1811年に発生したニューマドリッド地震の記録です。

ブラッドベリーは、現在のマンチェスター近郊で生まれました。綿織物業に従事しながらも、植物学への情熱を燃やし、1792年にはロンドン・リンネ協会の会員に選出されています。彼の探究心は、やがてアメリカ大陸への植物採集旅行へと導かれました。

マンチェスター時代にリヴァプール植物園からの資金援助を得てアメリカへ渡ったブラッドベリーは、大統領退任後のトーマス・ジェファーソンと会い、ミズーリ州セントルイスでの植物調査を勧められます。セントルイスを拠点に、精力的に植物採集を行い、採集した種子をリヴァプールへと送りました。

その後、ブラッドベリーはジョン・ジェイコブ・アスターの資金提供によるオレゴン州探検隊に参加します。探検隊は、植物学者トーマス・ナトールも参加していました。しかし、ブラッドベリーは本隊と別れ、ミズーリ川を探検するグループに加わります。この探検で、ブラッドベリーは40種もの新種の植物を発見し、その種子を収集しました。しかし、その中には、後にフレデリック・パーシュによって『北米の植物』に無断で掲載されたものもあり、このことがきっかけで、ブラッドベリーはその後植物学の研究から身を引いたとされています。

1811年12月、アスター遠征隊から帰還したブラッドベリーは、現在のテネシー州メンフィス付近で、ニューマドリッド地震を経験します。彼の記録は、この大地震に関する最初の科学的な記録として、現在も高く評価されています。

米英戦争によって帰国が遅れたブラッドベリーは、その間にオハイオ州、ケンタッキー州、インディアナ州、イリノイ州、西部準州などを調査し、後に『オハイオ、ケンタッキー、インディアナ、イリノイ、西部準州の状況に関する考察、およびこれらの地域への移民について』という著作を発表しています。1817年にはアメリカ大陸内陸の探検に関する記録である『1809年、1810年、1811年のアメリカ内陸の旅』を出版しました。

ブラッドベリーは、綿織物産業で成功を収めながら、植物学への並々ならぬ情熱を貫き、アメリカ大陸の自然に多大な貢献を果たした人物です。彼の業績は、単なる植物採集にとどまらず、地震記録など、多岐に渡る分野に影響を与え、19世紀初頭のアメリカ探検史において重要な役割を果たしました。彼の生涯は、科学と産業、二つの世界を繋いだ稀有な存在であったことを示しています。綿花と植物、二つの世界を繋いだ彼の功績は、今もなお人々に記憶されています。

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