トーマス・ナトール

トーマス・ナトール：北米自然探求の足跡

トーマス・ナトール (1786年1月5日 - 1859年9月10日) は、19世紀を代表するイギリス出身の植物学者、動物学者です。彼は印刷工の見習いからキャリアをスタートさせましたが、アメリカへの移住を機に、自然科学への強い情熱を燃やすようになりました。アメリカでの彼の活動は、北米の自然史研究に大きな足跡を残しました。

アメリカ大陸での探検と研究

1808年にアメリカに移住したナトールは、フィラデルフィアで著名な植物学者であるベンジャミン・スミス・バートンと出会い、本格的な博物学研究の道を歩み始めます。

彼の探検家としてのキャリアは、1810年のアスター遠征隊への参加から始まります。この探検隊では、ジョン・ブラッドベリーという植物学者と共に、北西部の広大な地域を調査。アリカラ族の交易所を訪れるなど、危険と隣り合わせの探検生活を送りました。

ルイス・クラーク探検隊による調査も既に行われていましたが、多くの標本が失われていたため、ナトールの探検は、多くの新種の発見に繋がりました。米英戦争のため一時帰国しましたが、1815年には再びアメリカへ渡り、精力的に植物の採集と研究を続けました。1818年には『北アメリカ植物属誌 (Genera of North American Plants)』を出版、その後のアーカンソー州やレッドリバーへの探検旅行記も著しました。

アカデミックなキャリアと新たな探検

ナトールは、アメリカ芸術科学アカデミーの准フェローに選ばれるなど、学術界でも高い評価を得ていました。ハーバード大学植物園の学芸員も務めた彼は、『アメリカとカナダの鳥類学マニュアル (Manual of the Ornithology of the United States and of Canada)』を出版し、鳥類学にも貢献しました。

学芸員退任後も、ナサニエル・ワイスが率いる探検隊に参加し、ジョン・カーク・タウンゼントらと共にカンザス州、ワイオミング州、ユタ州などを探検。スネーク川を下って太平洋沿岸に到達し、ハワイ諸島にも足を伸ばすなど、その活動範囲は広大でした。この探検で得られた知見は、アメリカの北西太平洋岸の植物研究に大きく貢献することとなります。

晩年と功績

1836年から1841年にかけてはフィラデルフィア自然科学アカデミーで働き、エイサ・グレイやジョン・トーリーと共に『北アメリカの植物 (Flora of North America)』の執筆に携わりました。その後、イギリスに帰国し、1841年に『北アメリカ樹木誌 (North American Sylva)』を著しました。これは、彼のアメリカでの研究の集大成と言えるでしょう。

ナトールは、アメリカ大陸での多岐にわたる探検と研究を通じて、膨大な数の植物と動物の標本を収集し、多くの新種を発見しました。彼の功績は、シロハラシマアカゲラ (Picoides nuttallii) やキバシカササギ (Pica nuttalli)、ミズキ科の植物 Cornus nuttallii といった、彼の名にちなんで名付けられた種名にも見ることができます。彼の研究は、北米の自然史研究に計り知れない貢献を果たし、現在もなお、多くの研究者たちに影響を与え続けています。

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