ジョン・ポーター:19世紀イギリス競馬界を代表する調教師
ジョン・ポーター(
1838年3月2日 -
1922年2月21日)は、イギリス競馬史に名を刻む
サラブレッド調教師です。英国国立競馬博物館は彼を「ヴィクトリア時代で最も成功した
調教師」と称え、競馬史家のロジャー・ロングリグは「19世紀最後の四半世紀における最大の
調教師」と評しています。3頭のイギリス三冠馬を育成しただけでなく、ニューベリー競馬場の創設者としても知られています。
犯罪者一家と競馬との出会い
ポーターは、仕立て屋と裁縫師を両親に持ち、
スタッフォードシャーで誕生しました。両親は治療のため医師ウィリアム・パーマーのもとで療養生活を送っており、ポーターは幼少期からパーマー医師と接していました。このパーマー医師は後に「ルージリーの毒殺魔」として知られる、悪名高い殺人犯でした。パーマー医師は保険金殺人によって得た資金を競馬に投資していたため、ポーターは幼少期から競馬界に囲まれた環境で育ちました。小学校時代の同級生には、後に2000ギニーを制するトム・アシュモールもおり、名騎手チャールズ・マーロウにも影響を受けました。
騎手としてのキャリアと厩舎での修業
両親はポーターに法曹界への進路を望んでいましたが、14歳で学校を中退し、1852年にジョン・バーラム・デイの厩舎で見習い騎手として働き始めました。デイ厩舎は悪徳高利貸をパトロンに持ち、ポーターは軽量ながら、後にイギリスのチャンピオン騎手となるジョン・ウェルズと同厩舎に所属したため、騎手としての活躍は限られていました。1854年に騎手デビューを果たし、1858年のダービー出走を最後に騎手としてのキャリアを終えました。通算の出走回数は20回にも満たないものでした。しかし、厩舎での修業を通して、競走馬の調教技術を磨いていきました。
ゴーター厩舎での馬丁時代とキャノンズヒース厩舎への転身
1855年、デイ
調教師が解任され、後任のウィリアム・ゴーター
調教師の下でポーターは筆頭馬丁に抜擢されました。17歳での抜擢でした。その後、ゴーター厩舎の移転に伴い、1863年にはウェストモーランド伯爵の紹介で、著名な馬主ジョセフ・ホーリー卿のキャノンズヒース厩舎の専属
調教師に就任しました。ホーリー卿は細かな指示を出す人物だったため、ポーターは実質的に馬丁のような役割を担っていました。しかし、かつての見習い仲間であるジョン・ウェルズ騎手とのコンビで、好成績を収め、キャノンズヒース厩舎をトップ厩舎へと押し上げました。
キングスクレア厩舎:黄金時代と苦悩
1867年、ホーリー卿は
バークシャー州にキングスクレア厩舎を建設し、ポーターは新たな厩舎に移りました。当初は施設が劣悪でしたが、1868年には
ブルーガウンでダービーを制覇。1869年にはペロゴメスでセントレジャーを制し、クラシック競走で連勝を飾りました。1875年のホーリー卿の死後、ポーターはキングスクレア厩舎を買い取り、大規模な改修を行いました。馬房の拡張、排水設備の整備、厩務員のための浴室とトイレの新設、そしてダービー・
ギャロップと呼ばれるトレーニングコースの建設など、厩舎を近代化しました。
しかし、ホーリー卿亡き後の経営は容易ではありませんでした。醸造業者のフレデリック・グラットンは、不正な馬券購入で利益を得ていた悪名高い馬主でした。グラットンとの不和を経て、ポーターは新たな馬主との繋がりを築き、1882年には
ショットオーヴァーで2000ギニーとダービーを制覇、1886年にはオーモンドでイギリス三冠を達成するなど、厩舎の黄金時代を築きました。この間、アルバート・エドワード皇太子からも馬を預かりましたが、1892年に他の
調教師へ移籍しています。この移籍の背景には、ポーターと皇太子側の代理人の性格の違いがあったと推測されています。皇太子はその後、ポーターから預かった牝馬パーディタが産んだパーシモン、ダイヤモンドジュビリーで大きな成功を収めました。
1899年には
フライングフォックスで三冠馬を達成。1905年に
調教師を引退するまでに、クラシック競走23勝を含む1063勝を記録しました。
ニューベリー競馬場の創設
ポーターは、ニューベリー競馬場の創設者でもあります。ジョッキークラブの反対を押し切り、エドワード7世の支援を得て、1905年にニューベリー競馬場を開設しました。引退レースとなったニューベリーでの勝利は、彼にとって大きな意義を持っています。
ジョン・ポーターの遺産
ジョン・ポーターは、競走馬だけでなく、厩舎スタッフにも優しく接し、彼らの待遇改善に尽力したことで知られています。厳格な調教方針で知られていましたが、その実直な人柄と、馬への深い愛情、そして人材育成への姿勢が、彼の成功の鍵でした。彼の功績は、ニューベリー競馬場や、今も名高いキングスクレア厩舎に残されています。