ショットオーヴァー

ショットオーヴァー（1879年～1898年）は、19世紀後半のイギリス競馬界を席巻した伝説的名牝です。2000ギニーとダービーステークスという二冠を達成した彼女は、イギリスクラシック三冠に挑んだ史上唯一の牝馬として知られています。

1882年、ショットオーヴァーが活躍した年は、イギリスのクラシック競走で牝馬が活躍した年として記憶されています。彼女以外にも、セントマーガレット、ゲハイムニス、ダッチオーヴンといった実力馬がしのぎを削り、クラシックの栄冠を分け合いました。他にも、オークス優勝馬を母に持ち、ニューマーケットセントレジャーを制したネリーや、プリンスオブウェールズステークスを制した牡馬クイックライムなど、強豪がひしめき合っていました。

クラシック競走でのショットオーヴァーの活躍は目覚ましく、当時無敗だったクイックライムを2000ギニー、ダービーステークスで破るという快挙を達成しました。しかし、1000ギニーではセントマーガレットに敗れ、クラシック三冠への道は険しいものとなりました。オークスでは、セントマーガレットがゲハイムニスに敗れるという波乱がありました。

ショットオーヴァーは、アスコットダービーとパークヒルステークスも制覇し、勢いそのままにセントレジャーステークスに挑戦。これはイギリスクラシック三冠への挑戦であり、史上4頭目となる偉業達成への挑戦でした。このレースには、ゲハイムニスも参戦。しかし、蓋を開けてみれば、単勝オッズ41倍という大穴、ダッチオーヴンが勝利を掴みました。ショットオーヴァーは、ゲハイムニスとの2着争いにも敗れ、3着に終わりました。なお、このセントレジャーステークスで、牝馬が上位を独占したのは、ショットオーヴァーが挑戦した時が史上唯一です。

翌年もレースに出走したものの、勝利を掴むことができず、ショットオーヴァーは競走馬としてのキャリアに幕を閉じました。一方、ライバルだったゲハイムニスとダッチオーヴンはその後も活躍を続け、特にゲハイムニスはジュライカップ、オールエイジドステークス、クイーンズスタンドプレートなど、実に20勝もの勝利を収めています。

競走馬を引退したショットオーヴァーは繁殖牝馬となり、チャンピオンステークス優勝馬オリオンなどを輩出しました。その血統は、フリゼットなどを経て現代まで受け継がれ、その影響は計り知れません。トウルビヨン（1928）、マートルウッド（1932）、種牡馬パーソロン（1960）、タイプキャスト（1966）、ミスタープロスペクター（1970）、シアトルスルー（1974）、ダリア（1978）、ダルシャーン（1981）、ファーディナンド（1983）、バーリ（1992）、シンダー（1997）、レイルリンク（2003）など、数多くの名馬を輩出。日本においても、プリテイキャスト、ラッキールーラ、レッツゴーターキン、サクラチトセオー、シルクプリマドンナ、ヘヴンリーロマンス、オウケンブルースリ、ジャスティンミラノといった名馬が、ショットオーヴァーの血を受け継いでいます。さらに、13-c号族の大部分を、ショットオーヴァーの子孫が占めていると言われるほど、その影響は広範囲に及んでいます。

1895年以降は繁殖活動を終え、1898年に屠殺されました。短い生涯でしたが、その活躍と血統は、今もなお競馬界に大きな影響を与え続けています。ショットオーヴァーの物語は、競走馬としての才能、そして繁殖牝馬としての成功という、二つの側面から、競馬史に輝く一ページを刻んでいます。

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