ジョン・マイケル・ライト

ジョン・マイケル・ライト：国際的な視点を持つ17世紀英国の肖像画家

ジョン・マイケル・ライト（John Michael Wright, 1617年5月 - 1694年7月）は、バロック様式を取り入れた肖像画で知られる17世紀の画家です。彼の作品は、写実的でありながらも、その人物の内面を深く捉えていると評価されています。出生地はイングランドとスコットランドの両説がありますが、スコットランドで画家としてのキャリアをスタートさせ、後にローマで画家、学者として成功を収めました。

生涯

初期の経歴とスコットランドとの関係

ライトの出生地は明確ではありませんが、画家としての活動期には「イングランド人」と「スコットランド人」の両方の署名を使用しています。同時代の人物からはスコットランド人として記録されていますが、ロンドンで生まれたとする説もあり、洗礼記録には、ロンドンの仕立屋の息子として記録されています。19歳でエディンバラの画家ジョージ・ジェムソンの徒弟となり絵画を学びました。スコットランドへ渡った理由は不明ですが、ペストを避けるため、あるいは両親の出身地に関係があるのかもしれません。徒弟期間中に作品は確認されていませんが、1640年代にローマで描かれた肖像画が、現存する最古の作品の一つです。

ライトはスコットランド滞在中に結婚した可能性があり、妻はスコットランドの名門貴族出身であるとされています。妻との間に少なくとも一人の息子、トマスがいました。

ローマ時代とネーデルラント時代

徒弟期間を終えたライトは、フランスを経由してイタリアへと渡りました。1647年からローマに滞在し、画家としての技術を高めました。1648年には、ローマの芸術家協会アカデミア・ディ・サン・ルカの会員となり、ローマ教皇庁美術アカデミーのメンバーにも選ばれています。10年以上に渡るローマ滞在中、ライトは語学力を習得し、美術鑑定家としても活躍しました。彼は、マンテーニャ、ミケランジェロ、ラファエロなどルネサンス期の巨匠の作品を含む、貴重なコレクションを築き上げました。

1654年、ライトはブリュッセルに移り、スペイン領ネーデルラント総督レオポルト・ヴィルヘルムに美術品購入のアドバイザーとして仕えました。レオポルトはハプスブルク家の有力者で、莫大な美術コレクションを所有していました。1655年には、レオポルトの命でオリバー・クロムウェル支配下のイングランドへ渡り美術品を購入しました。

イングランド時代

1656年、ライトはイングランドに帰国し、その後イタリアには戻りませんでした。当時のイングランドは護国卿時代でプロテスタントが優勢でしたが、カトリック教徒であったライトも活動を続けました。オリバー・クロムウェルの次女の死を悼む肖像画を描いたことも知られています。また、王党派の貴族の肖像画も描きました。

1660年の王政復古により、チャールズ2世が即位すると、ライトはカトリック教徒であるという立場を有利に活動できるようになりました。彼は、チャールズ2世の肖像画を描き、宮廷画家として認められましたが、常に、ピーター・レリーのような同時代の大物画家と比較され、その地位を確立するには至りませんでした。1665年のペストの大流行を避けるために一時的に疎開しましたが、ロンドン大火後の復興事業にも貢献し、ファイア・ジャッジの肖像画を制作しました。現在、これらの作品は一部しか残っていません。

王室からの後援

チャールズ2世はカトリック教徒を積極的に宮廷に迎え入れ、ライトもその恩恵を受けました。彼は1661年にチャールズ2世の公式肖像画を描きました。1673年には「常任画家」に任命されましたが、長年切望していた「国王の宮廷画家」の地位を得ることはできませんでした。ライトは、自身の肖像画を求めてきたトスカーナ大公コジモ3世にも謁見しました。

1670年代、ロンドンでのカトリックへの反感が高まる中で、ライトは宮廷外での仕事を増やしました。1678年からはダブリンに移り住みましたが、これはカトリック陰謀事件の混乱から逃れるためだったと考えられています。ダブリンでは、ニール・オニールやマンゴー・マレーといったカトリックの貴族や将軍を描きました。特に、オニールの肖像画では、日本の甲冑が描かれていることで知られています。

ローマ大使館時代

1685年、カトリック教徒のジェームズ2世が即位すると、ライトは王室の仕事を請けましたが、外交官の世話役という役割を与えられました。1686年には、ローマ教皇インノケンティウス11世への大使となったロジャー・パーマーの世話役としてローマへ派遣され、教皇との謁見や晩餐会の準備に尽力しました。また、この時、イタリア駐在大使向けの解説書を刊行しました。

晩年

1688年の名誉革命でジェームズ2世が追放されると、ライトの画家としてのキャリアは終わりを迎えました。1694年に死去し、セント・マーティン＝イン＝ザ＝フィールズ教会に埋葬されました。遺産は甥に引き継がれ、彼のコレクションはオークションで売却されました。

後世の評価

ライトの作品は、近年になってから再評価が進んでいます。1982年に開催された展覧会をきっかけに、彼の生涯や作品についての研究が進み、これまで他の画家のものとされていた作品が、ライトの真作であると再鑑定されるようになりました。現在では、彼は17世紀のイギリス出身の画家の中でも特に優れた一人として評価されています。特に、イギリスの上流階級が伝統的に外国人画家を好んだ時代において、イギリス人画家である彼の業績は非常に大きいと言えます。イタリア留学で得た知識や技術は、彼独自の画風を生み出し、彼の作品に深みを与えました。ピーター・レリーと比較されることが多いですが、ライトの写実的な表現は、現代の鑑賞者にとっては、より生き生きとした魅力的なものとして映ると言えるでしょう。

ライトの肖像画には、性的奔放ささえ感じられる写実性があることも指摘されています。当時の画家たちが、裸婦画を古代神話の登場人物として描いたのとは異なり、彼は、人間の肉体とその内面をそのまま表現しようとしました。これは、ライトの作品を、単なる肖像画ではなく、その時代を映し出す貴重な資料としても評価すべき理由の一つです。

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