ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン

ブルース・ブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン

『ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』は、ブリティッシュ・ブルース・ロックの先駆者、ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズが1966年にリリースしたスタジオ・アルバムです。この作品は、当時バンドに在籍していたエリック・クラプトンがその才能を開花させたことで特に知られており、後世のロック・ミュージックに計り知れない影響を与えました。

制作の背景

ジョン・メイオールは1965年初頭に自身のリーダー作『ジョン・メイオール・プレイズ・ジョン・メイオール』を発表しましたが、その直後、ギタリストのロジャー・ディーンの後任として、ヤードバーズを脱退したばかりのエリック・クラプトンが加入しました。メイオールはクラプトンのプレイに感銘を受け、バンドへの参加を熱望したと言われています。しかし、クラプトンは同年夏に一時的にバンドを離れギリシャへ旅行に出たため、後にフリートウッド・マックを結成するピーター・グリーンが代役を務めました。幸いにもクラプトンはその年のうちにバンドへ戻り、本作の制作へと繋がります。

当初、メイオールはクラプトン、ドラマーのヒューイ・フリント、そしてベーシストのジャック・ブルースという編成でライブ・アルバムを制作する予定でした。ロンドンのフラミンゴ・クラブで録音が行われましたが、音質が悪かったため、急遽スタジオでのアルバム制作へと方針が変更されました。なお、この時のフラミンゴ・クラブでのライブ音源は、後にメイオールの別名義アルバムや、本作のデラックス・エディション盤に収められ、日の目を見ています。アルバムの本編は、クラプトン、フリントに加え、オリジナル・ベーシストのジョン・マクヴィーを含むラインナップで、1966年5月にスタジオ録音されました。

サウンドと特徴

本作におけるエリック・クラプトンのギター・サウンドは、リリース当時としては極めて革新的でした。彼は1960年製のギブソン・レスポール・スタンダードを、1962年製のマーシャル・アンプに直接接続して使用しました。このレスポールとマーシャルという組み合わせから生まれた、適度に歪んだ（ディストーションの効いた）ギター・トーンは、その後のロック・ギター・サウンドの基礎を築いたと言われています。

また、ブルース・ロックを基盤としながらも、ジョニー・アーモンド（バリトン・サックス）、アラン・スキドモア（テナー・サックス）、デニス・ヒーリー（トランペット）から成るホーン・セクションが参加している点も本作の特徴です。メイオールは以前からスキドモアのジャズ・クラブでの演奏を聴いており、彼らをレコーディングに招きました。このホーン・セクションが加わることで、楽曲に厚みと多様性が生まれています。

収録曲には、オーティス・ラッシュの「オール・ユア・ラヴ」、フレディ・キングの「ハイダウェイ」、レイ・チャールズの「ホワッド・アイ・セイ」、ロバート・ジョンソンの「さすらいの心」といったブルースやR&Bのスタンダード・ナンバーのカバーが多く含まれています。「ハイダウェイ」にはエルモア・ジェームスの「ダスト・マイ・ブルーム」のリフが、「ホワッド・アイ・セイ」にはザ・ビートルズの「デイ・トリッパー」のリフがそれぞれ効果的に挿入されており、ブルースの伝統に留まらない遊び心も見られます。「さすらいの心」では、エリック・クラプトンが自身のキャリアにおいて初めてリード・ボーカルを務め、彼のボーカリストとしての側面も垣間見せました。この曲は、クラプトンがソロ活動を開始してからもライブで頻繁に取り上げられました。

ジャケット写真でクラプトンがイギリスのコミック雑誌『The Beano』を読んでいることから、本作はしばしば「The Beano Album」という愛称で親しまれています。

反響と評価

本作は、母国イギリスで大きな成功を収めました。1966年7月末に全英アルバム・チャートに初登場し、最高6位まで上昇、合計17週間にわたってチャートに留まるヒットとなりました。しかし、アメリカでは残念ながらチャート入りは果たせませんでした。

音楽評論家からの評価は非常に高く、オールミュージックのBruce Ederは満点の5点を与え、「ブルース・ギタリストとしてエリック・クラプトンが初めて正当に評価されたアルバムであるだけでなく、1960年代において最も影響力の強いブルース・アルバムの一つであり、おそらくブリティッシュ・ブルース史上最高のアルバム、そしてブルースブレイカーズの最高傑作」と絶賛しています。『ローリング・ストーン』誌が選出した歴史的なアルバムのリストにも一時的に名を連ねましたが、後の改訂版では外されています。それでも、2013年には『クラシック・ロック』誌の「クラシック・ロック・ロール・オブ・オナーズ賞」でクラシック・アルバム賞を受賞するなど、その評価は揺るぎないものとなっています。また、uDiscoverMusicのスタッフが選んだ「ブルース・アルバムのベスト120」にも選出されています。

与えた影響

本作は、その革新的なサウンドとクラプトンのギター・プレイによって、多くのミュージシャンやギター業界に大きな影響を与えました。特に、当時生産が終了していたギブソン・レスポール・スタンダードの人気を再燃させ、その結果、1968年にはレスポールの生産が再開されることとなりました。

著名なギタリスト、ゲイリー・ムーアは、本作のオープニング・トラック「オール・ユア・ラヴ」を聴いた瞬間に人生が変わったと語っており、自身の代表的なブルース・アルバム『スティル・ゴット・ザ・ブルーズ』（1990年）でこの曲をカヴァーしています。さらに、彼は1992年のアルバム『アフター・アワーズ』でも、本作収録曲の「愛の鍵」をカヴァーするなど、本作から深い影響を受けています。

収録曲と参加ミュージシャン

収録曲

1. オール・ユア・ラヴ (All Your Love) - 3:37
2. ハイダウェイ (Hideaway) - 3:17
3. リトル・ガール (Little Girl) - 2:37
4. アナザー・マン (Another Man) - 1:46
5. ダブル・クロッシン・タイム (Double Crossing Time) - 3:03
6. ホワッド・アイ・セイ (What'd I Say) - 4:29
7. 愛の鍵 (Key to Love) - 2:06
8. パーチマン・ファーム (Parchman Farm) - 2:24
9. ハヴ・ユー・ハード (Have You Heard) - 5:57
10. さすらいの心 (Ramblin' on My Mind) - 3:10
11. ステッピン・アウト (Steppin' Out) - 2:30
12. イット・エイント・ライト (It Ain't Right) - 2:42

（特記なき楽曲はジョン・メイオール作。2、11はインストゥルメンタル。）

※40周年記念デラックス・エディション盤には、これらの楽曲のモノラル・ヴァージョンとステレオ・ヴァージョンに加え、BBCセッション音源やフラミンゴ・クラブでのライブ音源などが多数追加収録されています。

主な参加ミュージシャン

ジョン・メイオール - ボーカル、ピアノ、ハモンドオルガン、ハーモニカ
エリック・クラプトン - リードギター、ボーカル (on #10)
ジョン・マクヴィー - ベース
ヒューイ・フリント - ドラムス

アディショナル・ミュージシャン

ジョニー・アーモンド - バリトン・サクソフォーン
アラン・スキドモア - テナー・サクソフォーン
* デニス・ヒーリー - トランペット

このアルバムは、ブリティッシュ・ブルースの隆盛を象徴する作品であり、エリック・クラプトンの初期のキャリアにおける金字塔として、現在も多くの音楽ファンに聴き継がれています。

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