ジョン・ラーベ 〜南京のシンドラー〜

映画『ジョン・ラーベ 〜南京のシンドラー〜』について

『ジョン・ラーベ 〜南京のシンドラー〜』（原題：John Rabe）は、2009年に公開されたドイツ、フランス、中国の合作映画です。この作品は、1937年の南京事件において、多くの中国人を救ったとされる実在の人物、ジョン・ラーベの日記を基に制作されました。ジョン・ラーベは、当時シーメンス社の中国支社長であり、ナチス党員でもありました。

映画は、ラーベが南京事件の際に、いかにして現地の人々を保護しようと尽力したかを描いています。しかし、映画の内容は原作の日記から大幅に脚色されており、特に事件の責任者として朝香宮鳩彦王が描かれている点が特徴的です。劇中では、朝香宮が「冷酷な日本軍人」として描かれており、ラーベは中国人民を守るために、日本軍の将校が構えるピストルの前に身を投げ出す愛と善意の人として描かれています。また、映画のエンディングでは、中国政府が主張する犠牲者数30万人説に基づいた字幕が表示されます。

国際版と中国語版では内容が一部異なり、国際版に登場する蔣介石のシーンは中国語版では削除されています。この映画は、2009年のドイツ映画賞で作品賞を含む4部門を受賞するなど、高い評価を受けました。しかし、日本では劇場公開が見送られ、一部の配給会社からは朝香宮が登場するシーンを削除するという条件で公開を持ちかけられたものの、監督によって拒否されています。2014年5月に日本の映画祭で初めて上映され、2015年3月には日本版DVDが発売されました。

映画の背景と評価

この映画は、ドイツ国内でも大きな反響を呼び、ドイツ文化局は中国向けサイトで積極的に宣伝し、韓国や英語圏向けのサイトでも記事にされていますが、日本ではラーベに関する言及はほとんどありません。出演者には香川照之や柄本明、ARATAといった日本人俳優もいますが、製作会社の華誼兄弟映画投資会社によると、日本の配給会社が上映を拒否したため、日本での劇場公開は実現しませんでした。

また、この映画と並行して、ドイツの第2テレビとアメリカのHBOが共同で『John Rabe - eine wahre Geschichte』（ジョン・ラーベ - 真実の物語）というドキュメンタリーも制作されています。

映画の批評と分析

美学・芸術文化学者の古川裕朗は、本作を2000年代のドイツ映画にみられる「良きドイツ国民」を描こうとする傾向の作品の一つと分析し、映画においてナショナルなものが肯定的・積極的な役割を果たしていると指摘しています。ゲルハルト・リューデガーも同様に「良きドイツ人」の存在を指摘し、映画が過去の克服と現在の基礎を築く役割を果たしていると述べています。ジョン・ラーベ研究家の永田喜嗣は、映画で朝香宮が事件に関与したように描かれているのは、ヨーロッパにおける「ノブレス・オブリージュ」の考え方が背景にあると指摘しつつ、映画の主題である南京事件の描写は史実に沿っていると解説しています。

批評家の夏目深雪は、映画の中で、当時の日本兵がナチス式敬礼で追い払われる場面を、グロテスクな美談として表現している点を指摘し、戦争の狂気を浮かび上がらせていると批評しています。

主な出演者

ウルリッヒ・トゥクル：ジョン・ラーベ
ダニエル・ブリュール：ゲオルク・ローゼン博士
スティーヴ・ブシェミ：ロバート・ウィルソン博士
アンヌ・コンシニ：ヴァレリー・デュプレ
ダグマー・マンツェル：ドーラ・ラーベ
チャン・チンチュー：琅書
香川照之：朝香宮鳩彦王中将
マティアス・ヘルマン：ヴェルナー・フリース
杉本哲太：中島今朝吾中将
柄本明：松井石根大将
ARATA：小瀬少佐
ショーン・ロートン：ジョン・マギー牧師
クリスチャン・ロドスカ：ルイス・スマイス博士
ゴットフリート・ヨーン：オスカー・トラウトマン博士

受賞歴

ドイツ映画賞：主演男優賞（ウルリッヒ・トゥクル）、作品賞、美術賞、衣装賞
バイエルン映画賞：最優秀男優賞、最優秀作品賞

この映画は、歴史的な出来事を題材にしながらも、人間ドラマとしても見ごたえのある作品です。ラーベの勇気ある行動を通して、戦争の悲惨さと、その中で人間が示すことができる善意を描いています。

もう一度検索