ジョヴァンニ・ボッテジーニ

ジョヴァンニ・ボッテジーニ：コントラバスの魔術師

ジョヴァンニ・ボッテジーニ（1821年12月22日 - 1889年7月7日）は、19世紀イタリアを代表する音楽家の一人です。作曲家、指揮者、そして何よりも卓越したコントラバス奏者として知られ、その並外れた技巧から「コントラバスのパガニーニ」と称されました。彼の生涯は、楽器としてのコントラバスの可能性を大きく広げた軌跡でもあります。

イタリア北部のロンバルディア州クレーマに生まれたボッテジーニは、優れたクラリネット奏者であり作曲家でもあった父から、幼い頃より音楽の基礎を学びました。11歳になる頃には、地元の劇場で合唱やティンパニを担当し、ヴァイオリンの公開演奏を行うなど、その早熟な才能を発揮していました。特にヴァイオリンの腕は将来を嘱望されるほどでしたが、その後の進路は思わぬ方向へと向かいます。

父はジョヴァンニに更なる音楽教育を受けさせるため、ミラノ音楽院への入学を望みましたが、家計は決して裕福ではなかったため、奨学金が必須でした。当時、奨学金枠に空きがあったのはコントラバスとファゴットの二つの楽器のみ。ヴァイオリンを専門とする道に進むことを期待されていたジョヴァンニは、このどちらかを選ばなければなりませんでした。結局彼はコントラバスを選び、わずか数週間という短期間で集中的に学習。その後のオーディションに見事合格し、音楽院への入学を許可されました。音楽院ではルイージ・ロッシに師事し、わずか1年で優等卒業を果たし、300フランの賞金を獲得します。この賞金を元手に、彼は名工カルロ・ジュゼッペ・テストーレ作のコントラバスを購入。これが、「コントラバスのパガニーニ」としての輝かしいキャリアの出発点となったのです。

音楽院卒業後、ボッテジーニは短期間ヴェネツィアのサン・ベネデット劇場で首席コントラバス奏者を務め、この地でジュゼッペ・ヴェルディとの知遇を得ます。その後、彼はソリストとしての活動に重点を移し、特にアメリカ大陸で最初の成功を収めました。ハバナの歌劇場で首席奏者を務める傍ら、1847年には同地で彼の処女オペラ『クリストフォロ・コロンボ』が初演されます。その後もニューオーリンズ、ニューヨーク、ロンドン、ウィーン、サンクトペテルブルクなど世界各地を巡り、その驚異的なコントラバスの演奏技術で聴衆を魅了しました。

1850年代からは、オペラ指揮者としても目覚ましい活躍を見せます。1855年から1857年にかけては、パリのイタリア語オペラ劇場「イタリア座」の音楽監督を務め、1856年には自身の第2作オペラ『フィレンツェの包囲』を同劇場で初演しました。オペラの指揮を行う際も、彼は常に自らのコントラバスを持参し、しばしば休憩時間などに当夜のオペラを基にした幻想曲を演奏して聴衆を楽しませました。これらの幻想曲、例えばドニゼッティの『ランメルモールのルチア』や、ベッリーニの『清教徒』、『テンダのベアトリーチェ』からの編曲などは、現在でもコントラバスの超絶技巧を示す重要なレパートリーとして演奏されています。

ボッテジーニは、コントラバスのための協奏曲や室内楽曲を数多く作曲したほか、いくつかのオペラも手掛けました。彼のコントラバス作品は今日でも同楽器の主要なレパートリーとしてリサイタルなどで頻繁に演奏されていますが、オペラ作品は、当時の台本の問題などもあり、残念ながら現在ではほとんど上演される機会がありません。

また、ボッテジーニは1871年12月24日にカイロで行われたヴェルディの傑作『アイーダ』の世界初演で指揮を執ったことでも知られています。ヴェルディが残した書簡からは、この指揮が、ヴェルディ自身が炎暑のカイロ行きを避けたかったこと、そして本来考えていた指揮者が病気だったことによる、次善の選択であった可能性が示唆されています。しかし、同時にヴェルディはボッテジーニを総合的な音楽家としては高く評価しており、その推薦もあって、ボッテジーニは1889年1月にパルマ音楽院の院長に就任しました。同年7月、彼はその地で生涯を閉じています。

ボッテジーニの演奏は、彼の存命中から常に高い評価を得ており、その圧倒的な技巧は文字通り「コントラバスのパガニーニ」という異名にふさわしいものでした。18世紀から19世紀にかけて活躍した同じくイタリア出身のドメニコ・ドラゴネッティと並び、ボッテジーニは、コントラバスという楽器がオーケストラの低音を支えるだけでなく、豊かで多様な音色を持つ立派な独奏楽器たり得ることを世界に示した最大の功労者と言えます。彼はまた、チェロで一般的なフランス式の運弓法をコントラバスに応用したことでも、楽器奏法史において重要な革新をもたらしました。

主なコントラバス独奏作品

アダージョ メランコニコ アパッショナート
アレグレット カプリチオ "ショパン風に"
アレグロ ディ コンチェルト "メンデルスゾーン風に" (グランド アレグロ)
カプリチオ ディ ブラヴーラ
コントラバス協奏曲第1番 嬰ヘ短調
コントラバス協奏曲第2番 ロ短調
コンチェルト ディ ブラヴーラ (協奏曲第3番)
グランド デュオ コンチェルタンテ
エレジー第1番 ニ長調
幻想曲：ベッリーニの『テンダのベアトリーチェ』、『夢遊病の女』、『ノルマ』より
幻想曲：『チェリート』より
二つのコントラバスのためのグランド デュオ パッショーネ アモローザ
タランテラ イ短調
幻想曲：パイジエッロの『もはや私の心には感じない』より

ボッテジーニの作品は、国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）などで閲覧可能です。彼の遺した音楽は、コントラバスという楽器の魅力を今に伝えています。

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