夢遊病の女

ベッリーニの傑作オペラ『夢遊病の女』

『夢遊病の女』（イタリア語: La Sonnambula）は、ヴィンチェンツォ・ベッリーニが1831年に作曲した2幕からなるオペラです。台本はフェリーチェ・ロマーニが手がけ、ウジェーヌ・スクリーブとジャン＝ピエール・オメールによるバレエ『夢遊病者、あるいは新たな領主の到来』を元にしています。

作曲の背景

ベッリーニは、ヴェネツィアでの『カプレーティとモンテッキ』の成功後、ミラノで体調を崩しました。カルカーノ劇場の翌シーズンのために、ジュディッタ・パスタ主演のオペラ作曲を引き受け、静養先でロマーニ、パスタとプランを練りました。当初はヴィクトル・ユーゴーの戯曲『エルナニ』を予定していましたが、検閲の厳しさから断念。スクリーブのヴォードヴィルをオペラ化することになりました。1831年1月から作曲が始まり、2月末には稽古に入りました。

初演とその後

1831年3月6日、ミラノのカルカーノ劇場で初演され、アミーナをジュディッタ・パスタ、エルヴィーノをジョヴァンニ・バッティスタ・ルビーニが演じました。初演は大成功を収め、ロンドンやパリでも上演されました。パスタとルビーニのために作曲されたため、歌手には高度な歌唱技術が要求されます。

19世紀には、マリア・マリブラン、ジュゼッピーナ・ストレッポーニ、ジェニー・リンド、アデリーナ・パッティなどがアミーナ役で名を馳せました。イタリアではドニゼッティの『愛の妙薬』と並び、牧歌劇の代表作と見なされ、ヴィクトリア朝のイギリスでも人気を博しました。

日本では1927年にカービ・イタリア歌劇団が初演し、1979年に藤原歌劇団が邦人による本格的な初演を行いました。

作品の特徴

『ラルース世界音楽事典』は、本作を「イタリア・オペラ史上でその名に値する最後のベルカント作品」と評し、アミーナの最後のアリアにおける古典派とロマン派の融合を評価しています。主要パートはソプラノで、パスタ、マリブラン、ポーリーヌ・ヴィアルド、リンド、アメリータ・ガリ＝クルチ、トーティ・ダル・モンテ、マルゲリータ・カロージオ、マリア・カラス、ジョーン・サザーランドらが演じてきました。また、カストラート芸術の継承者であるルビーニのために書かれたテノール・パートも特筆されます。

宮沢縦一は、ベッリーニの作品を「単純明快ながら気品に富み、古典の格調とロマン的情緒を備えている」と評する一方、「本作ほど初演からしばらくは圧倒的な人気を博しながら、その後どこでも敬遠されがちになったのも珍しい」と指摘しています。

グラウトは、「この時代のイタリア・オペラを論じるには、すべてが歌手に依存していることを忘れてはならない」と述べ、ベッリーニの作品においては旋律が特に重要であると指摘しています。

岸純信は、フランスの原作を脚色した台本により、リーザの活躍があるものの、女声間の重唱が少ない点を指摘しています。また、簡素なオーケストレーションとアカペラ部分の多さも特徴として挙げています。

『オックスフォードオペラ大事典』は、本作と『ノルマ』によってベッリーニの才能が開花したとし、優美で感動的な旋律とコロラトゥーラの多用を指摘しています。一方で、ベッリーニの突然の死が彼の円熟を奪ったとし、「才能を十全に開花できずに終わった未完芸術家の一生」という見方もあります。

登場人物

アミーナ：村の娘、夢遊病者（ソプラノ）
エルヴィーノ：アミーナの婚約者（テノール）
ロドルフォ伯爵：領主（バス）
リーザ：宿屋の女主人（ソプラノ）
テレーザ：アミーナの養母（メゾソプラノ）
アレッシオ：村人（バス）

楽器編成

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、バスドラム、トライアングル、弦五部、バンダ（舞台裏）

あらすじ

19世紀初頭のスイスの村が舞台。アミーナとエルヴィーノの婚約を妬むリーザや、領主ロドルフォ伯爵の出現により、アミーナは夢遊病のために浮気の疑いをかけられます。しかし、最終的にはアミーナの無実が証明され、二人は結ばれます。

主要楽曲

「アミーナ万歳！」Viva Amina （村人の合唱）
「私にはよい日和」Come per me sereno （アミーナのカヴァティーナ）
「受けとっておくれ」Prendi, l'anel ti dono （エルヴィーノとアミーナの二重唱）
「この心地良い場所には来たことがある」Vi ravviso （ロドルフォのカヴァティーナ）
「ああ、こんな風に萎れてしまうなんて」Ah, non credea mirarti （アミーナのアリア）
「ああ、これ以上ない喜び」」Ah! non giunge uman pensiero （アミーナのカバレッタ）

バレエ版

1946年には、ジョージ・バランシンの振付によりバレエとして上演されました。

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