ドメニコ・ドラゴネッティ
ドメニコ・ドラゴネッティ（Domenico Carlo Maria Dragonetti, 1763年4月7日 - 1846年4月16日）は、18世紀後半から19世紀にかけて活躍した、イタリア生まれのコントラバス奏者であり作曲家です。その驚異的な演奏技術と音楽への貢献により、「コントラバスのパガニーニ」とも称されることがあります。彼はヴェネツィアでキャリアの礎を築き、その名声は瞬く間にヨーロッパ中に広まりました。最終的にロンドンに拠点を移し、生涯の大半をこの地で過ごしながら、同時代の音楽界において欠かせない存在となりました。
ドラゴネッティはヴェネツィアで、理髪師であり素人音楽家であった父ピエトロのもとに生まれました。幼い頃から音楽に触れ、独学でギターとコントラバスを学び始めます。彼の才能は早くから注目され、12歳でヴェネツィア最高のコントラバス奏者ベリーニに師事しますが、わずか11回のレッスンで師が教えることはなくなりました。13歳にしてヴェネツィアの喜劇オペラの首席奏者に抜擢され、翌年にはさらに格式高い聖ベネデット劇場のグランド・オペラの首席コントラバス奏者となります。
その技術は高く評価され、サン・マルコ寺院のオーディションに合格し、コントラバス奏者の一員に加わります。当初は末席でしたが、すぐに首席奏者へと昇格しました。この頃にはその名声は国境を越え、ロシア皇帝からの招聘を受けるまでになりますが、彼はこれを辞退しヴェネツィアに留まることを選択します。彼のソロ演奏はコントラバス奏者としては異例であり、ヴェネツィア共和国を訪れた君主たちのための音楽祭でディレクターを務めるなど、その活躍は多岐にわたりました。また、グランド・オペラの仕事で訪れたヴィチェンツァでは、地元の修道院から伝説的な製作者ガスパロ・ダ・サロによるコントラバスを入手しており、この楽器は現在サン・マルコ寺院の博物館に所蔵されています。
1794年、ドラゴネッティはロンドンの王立劇場オーケストラへの参加を機にイギリスへ渡り、以降、その生涯をロンドンで送ることになります。同年12月に王立劇場でデビューを飾ると、すぐにロンドンの音楽界でその存在感を確立しました。約50年にわたり、イギリスの首都における主要な音楽活動、特にロンドン楽友協会（Royal Philharmonic Society）のコンサートには欠かせない存在となります。王配アルバート公やリンスター公爵といった貴族を含む有力者たちの社交の場でも頻繁に演奏し、その名声は揺るぎないものとなりました。王立劇場では、チェロ奏者のロバート・リンドレーと出会い、彼とは50年以上にわたる親密な共演関係を築きました。特にアルカンジェロ・コレッリのソナタ演奏は高く評価されました。
ドラゴネッティは、ハイドンやベートーヴェンといった同時代の最も偉大な作曲家たちとも深い親交を持ちました。彼はウィーンを何度か訪れ、特にベートーヴェンとは1799年の最初の訪問で出会い、以来友情を育みました。有名なエピソードとして、ベートーヴェンがドラゴネッティの驚異的なコントラバス演奏、特にチェロ作品を大きな楽器で難なく弾きこなす技術に感銘を受け、自作のチェロ・ソナタ第2番を共に演奏し、その素晴らしさに興奮して演奏者を楽器ごと抱きしめたという話が伝えられています。この出会いは、ベートーヴェンがオーケストラ作品におけるコントラバスのパートを、それまで一般的だったチェロと同じ扱いから独立させ、より高度な表現を求めるようになるきっかけの一つになったと言われています。ドラゴネッティは1813年にもウィーンを訪れ、ベートーヴェンの『ウェリントンの勝利』初演でコントラバス首席奏者を務めるなど、歴史的な演奏会にも参加しました。
ドラゴネッティは、その驚異的な力とスタミナ、そして独特の演奏スタイルで知られていました。彼は大きな手と長い指を持ち、他のコントラバス奏者の楽器よりも駒を高くし、指板と弦の間隔が広い楽器を難なく演奏しました。当時の一般的な奏法とは異なり、彼は親指を含む5本の指すべてを使って指板上を移動する革新的な運指を用いました。その音量はすさまじく、深夜にバルコニーでコントラバスを演奏した際、ホテルの宿泊客が翌朝「嵐が聞こえた」と話したという逸話が残るほどです。彼は生涯独身でしたが、等身大のマネキンを旅に連れて行ったり、犬のカルロを深く愛するなど、ユニークな一面も持っていました。また、楽器やスコア、絵画など、芸術作品の熱心なコレクターでもありました。彼が生涯をかけて改良したとされる独自のコントラバス弓（ドラゴネッティ弓）も、彼の名を今日に伝える重要な遺産の一つです。
ドラゴネッティは多くの作曲も行いましたが、ロンドンへ旅立つ際に友人に預けた楽譜や原稿の多くが散逸してしまいました。しかし、彼の手紙、私的な書簡、そして一部の作品やソロ曲の原稿は、彼の死後に大英図書館に寄贈・収蔵されており、今日でもその一端に触れることができます。彼が収集した貴重な楽器コレクションの中には、前述のガスパロ・ダ・サロ作のコントラバスや、ストラディバリウス、アマティなどの名器が含まれており、現在ヴィクトリア&アルバート美術館などに所蔵されています。ドラゴネッティは、コントラバスを単なるオーケストラの低音パートを支える楽器から、高度な技術と表現力を持つ独奏楽器へと引き上げた先駆者として、コントラバス史において極めて重要な位置を占めています。彼の技術と芸術性は、後世のコントラバス奏者たちに多大な影響を与え続け、特にベートーヴェンの交響曲におけるコントラバスパートの難易度は、今日でも奏者の技量の試金石とされています。
初期とヴェネツィア時代
ドラゴネッティはヴェネツィアで、理髪師であり素人音楽家であった父ピエトロのもとに生まれました。幼い頃から音楽に触れ、独学でギターとコントラバスを学び始めます。彼の才能は早くから注目され、12歳でヴェネツィア最高のコントラバス奏者ベリーニに師事しますが、わずか11回のレッスンで師が教えることはなくなりました。13歳にしてヴェネツィアの喜劇オペラの首席奏者に抜擢され、翌年にはさらに格式高い聖ベネデット劇場のグランド・オペラの首席コントラバス奏者となります。
その技術は高く評価され、サン・マルコ寺院のオーディションに合格し、コントラバス奏者の一員に加わります。当初は末席でしたが、すぐに首席奏者へと昇格しました。この頃にはその名声は国境を越え、ロシア皇帝からの招聘を受けるまでになりますが、彼はこれを辞退しヴェネツィアに留まることを選択します。彼のソロ演奏はコントラバス奏者としては異例であり、ヴェネツィア共和国を訪れた君主たちのための音楽祭でディレクターを務めるなど、その活躍は多岐にわたりました。また、グランド・オペラの仕事で訪れたヴィチェンツァでは、地元の修道院から伝説的な製作者ガスパロ・ダ・サロによるコントラバスを入手しており、この楽器は現在サン・マルコ寺院の博物館に所蔵されています。
ロンドンでの栄光
1794年、ドラゴネッティはロンドンの王立劇場オーケストラへの参加を機にイギリスへ渡り、以降、その生涯をロンドンで送ることになります。同年12月に王立劇場でデビューを飾ると、すぐにロンドンの音楽界でその存在感を確立しました。約50年にわたり、イギリスの首都における主要な音楽活動、特にロンドン楽友協会（Royal Philharmonic Society）のコンサートには欠かせない存在となります。王配アルバート公やリンスター公爵といった貴族を含む有力者たちの社交の場でも頻繁に演奏し、その名声は揺るぎないものとなりました。王立劇場では、チェロ奏者のロバート・リンドレーと出会い、彼とは50年以上にわたる親密な共演関係を築きました。特にアルカンジェロ・コレッリのソナタ演奏は高く評価されました。
巨匠たちとの交流
ドラゴネッティは、ハイドンやベートーヴェンといった同時代の最も偉大な作曲家たちとも深い親交を持ちました。彼はウィーンを何度か訪れ、特にベートーヴェンとは1799年の最初の訪問で出会い、以来友情を育みました。有名なエピソードとして、ベートーヴェンがドラゴネッティの驚異的なコントラバス演奏、特にチェロ作品を大きな楽器で難なく弾きこなす技術に感銘を受け、自作のチェロ・ソナタ第2番を共に演奏し、その素晴らしさに興奮して演奏者を楽器ごと抱きしめたという話が伝えられています。この出会いは、ベートーヴェンがオーケストラ作品におけるコントラバスのパートを、それまで一般的だったチェロと同じ扱いから独立させ、より高度な表現を求めるようになるきっかけの一つになったと言われています。ドラゴネッティは1813年にもウィーンを訪れ、ベートーヴェンの『ウェリントンの勝利』初演でコントラバス首席奏者を務めるなど、歴史的な演奏会にも参加しました。
演奏スタイルと人物像
ドラゴネッティは、その驚異的な力とスタミナ、そして独特の演奏スタイルで知られていました。彼は大きな手と長い指を持ち、他のコントラバス奏者の楽器よりも駒を高くし、指板と弦の間隔が広い楽器を難なく演奏しました。当時の一般的な奏法とは異なり、彼は親指を含む5本の指すべてを使って指板上を移動する革新的な運指を用いました。その音量はすさまじく、深夜にバルコニーでコントラバスを演奏した際、ホテルの宿泊客が翌朝「嵐が聞こえた」と話したという逸話が残るほどです。彼は生涯独身でしたが、等身大のマネキンを旅に連れて行ったり、犬のカルロを深く愛するなど、ユニークな一面も持っていました。また、楽器やスコア、絵画など、芸術作品の熱心なコレクターでもありました。彼が生涯をかけて改良したとされる独自のコントラバス弓（ドラゴネッティ弓）も、彼の名を今日に伝える重要な遺産の一つです。
遺産
ドラゴネッティは多くの作曲も行いましたが、ロンドンへ旅立つ際に友人に預けた楽譜や原稿の多くが散逸してしまいました。しかし、彼の手紙、私的な書簡、そして一部の作品やソロ曲の原稿は、彼の死後に大英図書館に寄贈・収蔵されており、今日でもその一端に触れることができます。彼が収集した貴重な楽器コレクションの中には、前述のガスパロ・ダ・サロ作のコントラバスや、ストラディバリウス、アマティなどの名器が含まれており、現在ヴィクトリア&アルバート美術館などに所蔵されています。ドラゴネッティは、コントラバスを単なるオーケストラの低音パートを支える楽器から、高度な技術と表現力を持つ独奏楽器へと引き上げた先駆者として、コントラバス史において極めて重要な位置を占めています。彼の技術と芸術性は、後世のコントラバス奏者たちに多大な影響を与え続け、特にベートーヴェンの交響曲におけるコントラバスパートの難易度は、今日でも奏者の技量の試金石とされています。
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