ジョージ・ハミルトン (1845-1927)

ジョージ・フランシス・ハミルトン卿

概要

ジョージ・フランシス・ハミルトン卿（1845年12月17日 - 1927年9月22日）は、ヴィクトリア朝末期からエドワード朝初期にかけてイギリス政界で活躍した保守党の政治家です。主に、海軍大臣やインド大臣といった要職を歴任し、当時の英国の国策決定に深く関わりました。特に海軍増強策である「二国基準」の制定や、保護貿易導入に反対して閣僚を辞任したことで知られています。

家系と初期

ハミルトン卿は、1845年12月17日、後に初代アバコーン公爵となる第2代アバコーン侯爵ジェームズ・ハミルトンと、ベッドフォード公爵ジョン・ラッセルの娘であるルイーザ夫人の三男として生まれました。彼はアバコーン公爵家の嫡流ではないものの、有力な貴族の家系に属しており、その背景は彼の政治キャリアに少なからず影響を与えました。兄には第2代アバコーン公爵となったジェームズがおり、また三人の弟（クロード卿、フレデリック卿、アーネスト卿）も皆、庶民院議員を務めており、政治に関わる一家でした。教育は名門ハーロー校で受けました。

庶民院議員としての活動

1868年、ハミルトンはミドルセックス選挙区から保守党候補として出馬し、当選を果たします。以降、1885年までこの選挙区で議席を維持しました。1885年からは選挙区をイーリングに移し、1906年まで庶民院議員を務め続けました。議員として活動する中で、彼は次第に保守党内の重要人物としての地位を確立していきます。

閣僚としての経歴

ハミルトン卿は、保守党政権下でいくつかの主要な閣僚ポストを経験しました。第2次ディズレーリ内閣においては、1874年から1878年までインド担当省の政務次官を務め、その後の1878年から1880年には教育委員会副委員長として教育政策に関与しました。

彼のキャリアにおける特に重要なポストは、海軍大臣とインド大臣です。1885年から1892年まで、第1次および第2次ソールズベリー侯爵内閣で海軍大臣を務めました。この時期、世界は植民地獲得競争が激化しており、特に海軍力の優位性は英国の国益にとって不可欠でした。ハミルトン卿は、フランスとロシアという当時の海軍力第2位、第3位の国の海軍力を合計しても英国海軍がそれを上回るべきである、といういわゆる「二国基準（Two-power standard）」を提唱し、大規模な海軍拡張計画を推進しました。これは英国の海上覇権維持に大きく貢献する政策となりました。

続いて、1895年から1903年にかけて、第3次ソールズベリー侯爵内閣およびアーサー・バルフォア内閣でインド大臣を務めました。広大なインド植民地を統括する責任者として、彼はインドの統治と経済政策に深く関与しました。バルフォア内閣の末期、イギリス国内で激しい関税論争が起こります。植民地との連携を強めるために帝国特恵関税制度（保護貿易）の導入を目指すジョゼフ・チェンバレンに対し、ハミルトン卿は自由貿易の維持を強く支持しました。彼が担当するインド経済は自由貿易体制下で英国と密接に結びついており、保護貿易への移行はインドに深刻な影響を与えると考えたからです。バルフォア首相が明確な態度を示さず折衷的な立場を維持する中、ハミルトン卿は財務大臣チャールズ・リッチーら他の自由貿易論者の閣僚と共に、1903年に内閣を辞任しました。この辞任は、当時の保守党内の路線対立を示す象徴的な出来事となりました。

その他の活動と晩年

政治の第一線から退いた後も、ハミルトン卿は公的な役割を担いました。1899年から1923年まで、名誉職であるディール城隊長を務めたほか、1909年にはディール市長も務めました。また、ミドルセックスやウェストミンスターでは治安判事としても活動しました。

1927年9月22日、ハミルトン卿は81年の生涯を閉じました。

栄典

彼の長年にわたる公職への貢献に対し、様々な栄典が授与されました。

1878年：枢密顧問官（PC）に列せられる。
1903年：インドの星勲章ナイト・グランド・コマンダー（GCSI）を受章。
オックスフォード大学から名誉民事法学博士号（DCL）を、グラスゴー大学から名誉法学博士号（LLD）を授与される。

家族

1871年、ハミルトン卿は第3代ヘアウッド伯爵ヘンリー・ラッセルズの娘モードと結婚しました。夫妻の間には3人の息子が生まれ、それぞれが異なる分野でキャリアを築きました。

長男：ロナルド・ジェームズ・ハミルトン（1872-1958） - 外交官。
次男：アンソニー・ジョージ・ハミルトン（1874-1936） - 陸軍軍人、少佐。
三男：ロバート・セシル＝ハミルトン（1882-1947） - 海軍軍人、中将。

ハミルトン卿は、ヴィクトリア朝後期からエドワード朝初期という、大英帝国が絶頂期を迎えつつも内部に様々な課題を抱え始めていた時代において、海軍力強化と自由貿易の維持という、英国の根幹に関わる政策に深く関与した重要な政治家の一人です。

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