ジョージ・ブライアン・ブランメル

ジョージ・ブライアン・ブランメル：時代を彩ったダンディズムの帝王

ジョージ・ブライアン・ブランメル (1778年6月7日-1840年3月30日) 。その名は、単なる貴族や紳士の名前ではありません。「ボー・ブランメル」として知られる彼は、摂政時代のイギリスにおけるファッションの絶対的権威であり、後のジョージ4世とも親交のあった、平民出身の異色の存在でした。

平民から社交界の頂点へ

ブランメルは、下僕か菓子職人だったという祖父と、ノース卿に仕えた父の間に生まれました。平民ながらイートン・カレッジへ入学した彼は、裕福な同級生たちの中でも、その服装への並々ならぬ関心と洗練されたセンスで際立っていました。靴の留め金を発明するなど、その才能は多岐に渡りました。完璧な身だしなみと、冷淡で物憂げな態度から、級友たちから「ボー・ブランメル」というあだ名がつけられたのも当然と言えるでしょう。

その後、叔母の[農家]]でジョージ皇太子]と出会い、その注目を集めます。[[オックスフォード大学卒業後、近衛第十軽騎兵隊に入隊。イギリス社交界での存在感を増し、皇太子の許嫁であるキャロライン・オブ・ブランズウィックの出迎え役を務める栄誉にも浴しました。わずか18歳で大尉に昇進するなど、順風満帆な軍人生活を送っていたブランメルでしたが、マンチェスターへの転任を命じられたことを機に、近衛隊を辞し、ロンドンでの生活を選びます。

ダンディズムの伝説

ロンドン、チェスターフィールド街4番地に居を構えたブランメルは、骨董品収集や華やかな宴席で人々を魅了しました。この頃、彼のダンディズムは伝説へと昇華していきます。イギリスのみならず、ヨーロッパ中の流行を牽引する存在となったのです。

パトロンであったウェールズ公との仲違い後も、高級貴族の集まりであるウォーティア・クラブの終身会長に選ばれるなど、その影響力は衰えることはありませんでした。さらに彼は、賭博でも名を馳せ、ナポレオンに関する賭けなどで莫大な富を築きました。しかし、ナポレオン戦争終結後に訪れたロシアやプロイセンの将校たちとの無謀な高額賭博に全てを失い、1816年、多額の借金を抱えたブランメルは、イギリスを逃亡し、フランスへと身を寄せます。

亡命と晩年

カレーに移り住んだブランメルは、イギリスの貴族たちからの援助を受けながら生活を続け、イギリス社交界の話題の中心であり続けました。ウェリントン公など、多くのイギリスの著名人が彼を訪ねたと言われています。暇つぶしに作ったという詩「蟻の埋葬」は、その完成度の高さからイギリス本土にまで知れ渡るほどでした。その後、ジョージ4世の退位に伴い、カーン市の領事に任命されたものの、領事職不要を報告したため罷免され、再びカレーへ戻り、借金のために投獄されるなど、晩年は苦難の連続でした。最終的には、養老院で静かに息を引き取りました。

洗練されたスタイル

ブランメルは、毎日の服装に2時間も費やしたと言われています。18世紀末に始まったイギリス紳士服の規準を作り上げたと言われるほど、その着こなしは完璧でした。上衣は体にフィットし、乗馬にも適したものでした。昼夜で異なる服装を身につけ、細かな装飾は一切排除し、シンプルながらも洗練されたスタイルは、多くの人々に模倣されました。特に「ネッククロス」と呼ばれる、独特のネクタイの結び方は、当時の伊達男たちに大きな影響を与えました。彼の有名な言葉「街を歩いていて、人からあまりじろじろ見られないときは、君の服装は凝りすぎているのだ」は、彼のスタイルの本質をよく表しています。

後世への影響

バイロン卿はブランメルを高く評価し、「19世紀の三偉人」として、自身を3位、ナポレオンを2位、ブランメルを1位に挙げたと言われています。平民出身でありながら、圧倒的な審美眼と個性で人々のファッションを支配したブランメルは、類まれな自己創造力の持ち主でした。ダンディズムという概念の確立に多大な影響を与え、ジュール・バルベー・ドールヴィイ、ヴァージニア・ウルフ、ジャック・ブーランジェなど、多くの作家が彼の生涯やスタイルについて記しています。日本では、生田耕作や山田勝などが、ブランメルのダンディズムを紹介しています。

ボー・ブランメルは、その華麗なる人生と、時代を超えて愛されるスタイルによって、永遠のダンディズムの象徴として、人々の記憶に刻まれています。

もう一度検索