ジラード事件

ジラード事件の概要



1957年1月30日群馬県相馬ヶ原演習場(現在の陸上自衛隊相馬原駐屯地)で、在日米軍兵士ウィリアム・S・ジラードが、演習地内に立ち入った日本人主婦を射殺した事件です。事件は、米軍の演習地内での実弾射撃訓練中に発生しました。当時、演習地は立ち入り禁止でしたが、近隣住民は薬莢弾頭を拾って換金するため、しばしば立ち入っていました。

事件当日、薬莢を拾っていた主婦(当時46歳)に対し、ジラード三等特技兵(当時21歳)がM1ガーランドに装着したM7グレネードランチャーで空薬莢を発射し、主婦は即死しました。目撃者の証言によると、ジラードは主婦に「ママサンダイジョウビ タクサン ブラス ステイ」と声をかけ、近づいてきたところを射殺した可能性が指摘されています。この事件は、アメリカに対する批判を高め、社会現象となりました。

事件後の裁判と密約



事件発生後、日本側はジラードが休憩時間中であったことから、日本の裁判権を主張しました。一方、アメリカ側はジラードの行為が職務中であるとして、アメリカ軍事法廷での裁判を主張し、両国間で激しい対立がありました。最終的には、ジラードが日本の裁判に服することになりました。

ジラードの家族はアメリカでの裁判を求めましたが、日本での世論の高まりを受けて棄却されました。結果として、ジラードは日本で傷害致死罪で起訴され、前橋地方裁判所において懲役3年、執行猶予4年の有罪判決を受けました。しかし、その直後、ジラードはアメリカへ帰国しています。

ジラードは、酒癖が悪く、借金癖があったため、兵士仲間からも軽蔑されていたようです。アメリカ軍を不名誉除隊した後、台湾出身の日本人女性と結婚し、日本に帰国した際にも、兵士仲間からブーイングが起きたという話が残っています。被害者の遺族には、補償金として1,748.32米ドル(2011年現在で13,642米ドル相当)が支払われましたが、多くの日本人はこれを司法取引の結果だと捉え、被害者の夫も「感謝しない」と述べています。

さらに、1991年にアメリカ政府の秘密文書が公開されたことにより、ジラードの処罰を最大限軽くする(殺人罪ではなく傷害致死罪で処断する)ことを条件に、身柄を日本に移すという密約が日米間で結ばれていたことが明らかになりました。この密約は、1994年11月20日に日本の外務省が行った「戦後対米外交文書公開」でも確認されています。

事件が残した教訓



ジラード事件は、在日米軍兵士による犯罪に対する日本の裁判権、日米地位協定の問題点、そして日米間の不平等な関係を浮き彫りにしました。また、司法取引とも言える密約の存在は、司法の公平性に対する国民の不信感を増大させました。この事件は、日本社会に大きな衝撃を与え、その後の在日米軍に対する国民感情に大きな影響を与えました。


関連事項



ロングプリー事件
伊江島事件
在日米軍裁判権放棄密約事件

外部リンク



ジラード事件前橋地裁判決 - データベース「世界と日本」
相馬ヶ原農婦射殺事件(昭和32年2月13日) - 日本映画新社・朝日ニュース昭和映像ブログ
“ジラード事件。農家の主婦が米兵に射殺される。” - 読売新聞
* “今問うジラード事件 米兵が演習場で日本人女性射殺” - 東京新聞

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