ジ・エンターテイナー

「ジ・エンターテイナー」（The Entertainer）は、アメリカ合衆国の作曲家スコット・ジョプリンによって1902年に発表された、ピアノ独奏のためのラグタイム作品です。同名の楽曲や映画なども存在しますが、一般にこのジョプリンの楽曲を指します。

スコット・ジョプリンは、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した、ラグタイム音楽を代表する作曲家であり、「ラグタイムの王」と称されました。ラグタイムは、厳格なリズムを刻む左手の伴奏に対して、右手でシンコペーションを多用したメロディを奏でるのが特徴で、当時のアメリカで大流行したポピュラー音楽のジャンルでした。

本作は、発表から長らく経た1973年、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォード主演の映画『スティング』の主要なテーマ曲として採用されたことで、世界的に広く知られるようになりました。この映画での効果的な使用は、当時忘れられかけていたラグタイム音楽に再びスポットライトを当て、1970年代におけるラグタイムのリバイバルブームを巻き起こす大きな契機となりました。

特に、映画で使用されたマーヴィン・ハムリッシュによる編曲版は、映画のヒットと相まって絶大な人気を博し、翌1974年にはビルボードの主要チャートで成功を収めました。ビルボードHot 100チャートでは最高3位を記録し、イージー・リスニング・チャートでは見事1位を獲得しています。また、本作はアメリカレコード協会によって「世紀の歌」リストの第10位に選ばれるなど、その音楽史における重要な位置づけが評価されています。

楽曲には「ラグタイム・トゥー・ステップ」（A rag time two step）という副題が付されています。「トゥー・ステップ」は、2拍子の軽快なダンススタイルで、1910年代頃に流行し、当時のラグタイム楽曲にしばしば副題として用いられました。音楽的には、主にハ長調で書かれていますが、中間部にはヘ長調に転調する部分も含まれます。楽曲の構成はA-B-A-C-Dという典型的なラグタイムの形式をとっており、各セクションは明確に区別されています。特に、メロディが繰り返される際には、楽譜の指示に従い、元のオクターブから1オクターブ上げて演奏することで、楽曲に変化と推進力が与えられます。

映画『スティング』の舞台設定は1930年代であり、この時代はスウィング・ジャズが全盛期でした。本作が作曲された1902年はそれよりも前の時代にあたり、映画が描く時代においては既に過去の音楽スタイルでした。映画の監督や音楽担当者は、1930年代の雰囲気を演出しつつも、それより古い時代の象徴であるラグタイムを用いることで、登場人物たちの時代錯誤的でありながらも洒落た、そして巧妙な詐欺の手口にふさわしい、独特のムードを醸し出すことに成功したと言えるでしょう。

その親しみやすいメロディから、「ジ・エンターテイナー」は現代においても様々な場面で使用されています。例えば、日本のゲーム作品において印象的なBGMとして採用された例なども見られます。

関連分野としては、ラグタイムが発展に影響を与えたジャズやブルースといった音楽ジャンルが挙げられます。また、本作の楽譜は、国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）をはじめとするインターネット上の複数のサイトで公開されており、誰でも無料で入手して演奏を楽しむことが可能です。

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