スコット・ジョプリン

スコット・ジョプリン（英語: Scott Joplin, 1867年または1868年頃 - 1917年 4月1日）は、アメリカ合衆国のアフリカ系アメリカ人作曲家、そして卓越したピアノ演奏家でした。彼は「ラグタイム王」（King of Ragtime）として広く知られ、この音楽ジャンルを確立し普及させる上で極めて重要な役割を果たしました。

生涯

幼少期と音楽への目覚め

スコット・ジョプリンは、かつて奴隷であった農夫ジャイルズ・ジョプリンと、生まれつき自由民であったフローレンス・ギヴェンスの間に生まれました。母親もアフリカ系アメリカ人でした。彼の正確な誕生日は長年議論されてきましたが、現在では1867年7月から1868年4月の間に出生したという説が最も有力とされています。出生地も諸説ありますが、テキサス州東部のリンデン近郊が有力視されています。

1875年頃、家族はテキサス州テクサカーナに移り住みました。幼い頃からジョプリンは音楽的な才能を発揮し、特にバンジョーを器用に演奏しました。当時のアフリカ系アメリカ人には教育や職業の機会が限られており、両親は息子の音楽の才能が将来の助けとなることを強く願いました。特に母親は、家計をやりくりしてピアノを買い与え、息子の才能を伸ばすために尽力しました。1876年には音楽の個人教授を受けましたが、ピアノ演奏自体は独学で身につけたとも言われ、10代のうちにはすでにダンス音楽の演奏家として活動していました。

放浪とキャリアの形成

1882年頃、ジョプリンは故郷を離れ、ミシシッピー川流域の様々な場所で音楽活動を始めます。サロンなどで演奏する中で、後に彼の音楽を世に送り出すことになる白人の音楽出版者ジョン・スタークと出会いました。1890年頃にはセントルイスに移り、中西部の賑やかなサロンや、時には売春宿でも演奏し、音楽家としての腕を磨きました。1893年にはシカゴで開催された世界コロンビア博覧会に隣接するエリアでも演奏し、多くの聴衆にその音楽を披露しました。1894年にはミズーリ州セダリアに移り住み、8人の仲間と共にテキサス・メドレー・カルテットを結成して、ニューヨークまで演奏旅行を行いました。

ラグタイムの確立と成功

ジョプリンは、単なるエンターテイナーではなく、クラシック音楽のピアニスト・作曲家として認められることを強く志していました。1895年には黒人のためのジョージ・R・スミス大学で学び、ヨーロッパのクラシック音楽の形式と、アフリカ系アメリカ人の持つ独特のハーモニーやリズム感を融合させた新しい音楽スタイルの探求に没頭しました。これが後に「ラグタイム」と呼ばれる音楽ジャンルの基礎となります。

1896年には、テキサス州で起きた列車衝突事故から着想を得て『ザ・グレート・クラッシュ・コリジョン・マーチ』を作曲しました。そして、1899年頃から1914年にかけて、約15年間にわたり精力的に多くのラグタイム作品を生み出しました。1900年にセントルイスに戻り、ジョン・スタークとの親交を深めます。スタークは彼の代表作の一つである『メイプル・リーフ・ラグ』を出版し、これが商業的に大成功を収め、ジョプリンの名は広く知られるようになりました。1902年にはもう一つの代表作『ジ・エンターテイナー』を発表しました。また、1901年にはスコット・ハイデンと共作で『サンフラワー・スロウ・ドラッグ』を発表し、ハイデンの妹ベルと結婚しましたが、彼女は音楽への理解が乏しく、二人は1903年に離婚しました。同年にオペラ『ゲスト・オブ・オナー』を作曲しましたが、残念ながらこの作品は現在失われてしまっています。

晩年と病

1907年、ジョプリンはロッティー・ストークスと出会います。ロッティーは音楽を深く愛しており、彼らはその後約10年間を共に幸せに過ごしました。1911年、ジョプリンは活動の中心をニューヨークに移し、オペラ『トゥリーモニシャ』の作曲に専念しました。しかし、1915年に彼のピアノ演奏によるオペラの試演が行われましたが、聴衆の反応は芳しくありませんでした。後に最初の妻ベルが語ったところによると、この失敗はジョプリンにとって計り知れない精神的な打撃となったようです。

晩年、ジョプリンは梅毒による影響で心身の不調をきたすようになります。1917年1月中旬には症状が悪化し、ブルックリンの病院に入院しました。認知症の症状も現れ、入退院を繰り返す日々を送ります。そして、1917年 4月1日、合併症としての肺炎が直接の死因とされましたが、実際には梅毒による全身の機能低下が彼の死を招いたと考えられています。

死後の再評価

ジョプリンは存命中に作品の版権収入を得ていましたが、クラシック音楽の重要な作曲家として広く認められることはありませんでした。彼の死後、その音楽は次第に忘れられていきましたが、1970年代に入ると劇的な再評価の波が訪れます。1973年公開の映画『スティング』のサウンドトラックに彼の楽曲が多数使用され、映画とともに大ヒットしました。これにより、彼の音楽は世界中の人々に知られることとなります。これを機に、彼のピアノ作品を収録したレコードが次々と発売され、多くがクラシック音楽のセールスチャートで上位にランクインしました。さらに、1976年にはオペラ『トゥリーモニシャ』が演奏され、ピューリッツァー賞特別賞を受賞するという快挙を成し遂げました。

現在、スコット・ジョプリンはラグタイムというジャンルを代表する、そしてアメリカ音楽史においても重要な作曲家として確固たる地位を築いています。彼がかつてセントルイスで暮らした家は博物館「スコット・ジョプリン州史跡」として保存され、その功績を伝えています。

もう一度検索