スカイボルト (ミサイル)

スカイボルト計画：空中発射弾道ミサイルの栄光と挫折

1950年代後半、冷戦の激化は、アメリカ合衆国に新たな戦略兵器の開発を迫りました。その一つが、空中発射弾道ミサイル「スカイボルト（GAM-87/AGM-48 Skybolt）」です。地上に設置された弾道ミサイルは敵の攻撃に脆弱であるという問題意識から生まれたスカイボルトは、爆撃機から発射されるという斬新なコンセプトを持つミサイルでした。空中発射という方法によって、敵の攻撃を回避し、高い生存性と隠蔽性を確保することが期待されました。さらに、戦略爆撃機の運用方法に新たな可能性をもたらすものとして、アメリカ空軍だけでなく、イギリス空軍からも大きな期待が寄せられました。

開発の背景と期待

当時、核ミサイルの開発は目覚ましい進歩を遂げていましたが、地上配備型ミサイルは敵の攻撃に晒される危険性がありました。核攻撃を受けてミサイル発射基地が破壊されれば、報復攻撃能力を失う危険性があったのです。この脆弱性を克服する手段として、空中発射型のミサイルが注目を集めました。爆撃機から発射されるスカイボルトは、常に位置を変えながら待機できるため、敵の攻撃を回避しやすかったのです。また、大陸間弾道ミサイル（ICBM）の開発が進展する中、戦略爆撃機の役割は低下しつつありましたが、スカイボルトは爆撃機に新たな任務を与え、その存在意義を維持するものとして期待されました。特にイギリスは、自国の核ミサイル計画「ブルーストリーク」に遅延と予算超過の問題を抱えており、スカイボルトに大きな期待を寄せていました。

開発の経緯と技術的困難

1958年、複数の企業がスカイボルトの開発に参入しました。ダグラス・エアクラフトが主契約者となり、ノースロップ、エアロジェット・ジェネラル、ゼネラル・エレクトリックなど、多数の企業が開発に参加しました。計画はWS-138Aとして始まり、後にGAM-87、そしてAGM-48と名称が変更されました。スカイボルトは、慣性航法装置と天測航法を併用し、既存の地上配備ミサイルと同等の命中精度を目標としていました。イギリス空軍は、スカイボルトを自国のバルカン爆撃機に搭載し、ソ連の防空網の外から攻撃を行うことを計画しました。当時、イギリス首相だったハロルド・マクミランは、アメリカ大統領アイゼンハワーとの会談で、144基のスカイボルトを購入することで合意しました。

しかし、スカイボルトの開発は容易ではありませんでした。一連の試験は何度も失敗に終わり、技術的な問題が山積していました。1962年12月、ケネディ大統領はスカイボルトの開発計画中止を決定しました。これは、イギリスにとって大きな衝撃でした。イギリスは、自国の核戦略に大きな穴が開いた形となり、アメリカとの関係にも影響を与える「スカイボルト危機」を引き起こしました。

計画中止とその後

スカイボルト計画の中止は、イギリスに大きな打撃を与えました。イギリスは、アメリカから代替策としてポラリスSLBM（潜水艦発射弾道ミサイル）の導入を提案され、ナッソー協定によりこれを承諾しました。これにより、イギリスの主要な核抑止力は空軍から海軍に移ることとなりました。計画中止後も、残されたミサイルを用いた限定的なテストが続けられましたが、空中発射弾道ミサイルというコンセプトは、地上発射型のミサイルが改良されていくにつれて、次第にその重要性を失っていきました。地上発射ミサイルのサイロ化技術の進歩によって、空中発射の必要性が薄れたのです。

スカイボルトの技術的特徴

スカイボルトは、全長11.66メートル、直径89センチメートル、発射重量5,000キロの二段式固体燃料ロケットミサイルでした。射程は1,850キロメートル、弾頭は核出力1.2メガトンのW59核弾頭を装備していました。第一段ロケット燃焼後、第二段エンジン点火までの間は滑空飛行を行い、誘導は第一段の可動尾翼と第二段の可動ノズルによって行われました。アメリカ空軍ではB-52G爆撃機に4基、イギリス空軍ではバルカン爆撃機に2基搭載する計画でした。

まとめ

スカイボルト計画は、技術的困難と国際政治的思惑が複雑に絡み合った結果、失敗に終わったプロジェクトです。この計画は、空中発射弾道ミサイルという革新的なコンセプトを提示しましたが、その実現には至りませんでした。しかし、この計画は、冷戦時代の核戦略や技術開発、そして国際関係を考える上で、重要な一石を投じたと言えるでしょう。

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