スカシユリ

スカシユリ（透百合）

概要

スカシユリ（Lilium maculatum Thunb.）は、ユリ科ユリ属に分類される多年草です。この植物は、日本の中部地方以北の海岸の砂礫地や崖、岩場に生育しており、その美しい橙色の花が特徴です。スカシユリは、古くから栽培や育種の対象となっており、交配の母種としても利用されています。

この植物の名前は、花被片の付け根にやや隙間が見えることに由来し、「透かし」百合と呼ばれています。スカシユリとその近縁種は、時にスカシユリ亜属としてまとめられることもあります。

特徴

スカシユリの鱗茎は白色で卵型をしており、直立した茎は20cmから60cmの高さに達します。葉は披針形で互生し、葉柄はありません。太平洋岸の個体群は7月から8月に、そして日本海岸の個体群は5月から6月に花を咲かせます。茎の先端には、直径約10cmの赤褐色の斑点を持つ橙色の花が開きます。この花は特に美しく、自然の中でも目立つ存在です。

さらに、スカシユリは近縁のエゾスカシユリと比べて、花柄やつぼみに綿毛がない点で特徴づけられます。また、全体のサイズもやや小型であるため、識別が容易です。

分布と分類

スカシユリは、日本国内において中部地方より北の海岸に広く分布しています。個体群は地理的に隔絶されており、大きく2つの地域型に分類できます。ひとつは太平洋岸に生息する個体群で、別名イワトユリと呼ばれます。もうひとつは日本海岸に生育する個体群で、イワユリと称されます。両者の間には分化した変種として、山地生のミヤマスカシユリやヤマスカシユリが存在します。

太平洋岸の個体群

中部地方以北の海岸に分布し、特にイワトユリと呼ばれることがあります。この個体群から派生した変種には、山地生のミヤマスカシユリがあります。

日本海岸の個体群

北陸地方以北の海岸に生育し、イワユリと呼ばれることが一般的です。この個体群は矮性のものが多く、変種として山地生のヤマスカシユリが知られています。

保護上の位置づけ

スカシユリやその変種は、食用や栽培目的で古くから採掘されてきました。このため、個体数が減少する傾向にあり、特にシカなどの食害がその要因となっています。そのため、各地での保護が求められています。

• - スカシユリ: 千葉県版レッドデータブックでは絶滅危惧II類、新潟県および秋田県では準絶滅危惧種に指定されている。
• - ミヤマスカシユリ: 絶滅危惧IB類（環境省レッドリスト）として扱われ、いくつかの県では絶滅危惧I類に指定されている。
• - ヤマスカシユリ: 準絶滅危惧（NT）としての位置づけがされており、複数の県で絶滅危惧I類やII類に認定されている。

利用

スカシユリは、その美しい花はもちろん、デンプンを多く含む鱗茎が食用として利用されることもあります。また、園芸品種としても人気があり、庭や公園で愛でられています。風情ある景観を創出するため、多くの園芸家に支持されています。

万葉集の歌

万葉集にも登場し、「夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものぞ」と詠まれています。このように、古より人々の心を掴んできたのがスカシユリの魅力とも言えるでしょう。

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