スカーバラ、ハートルプールおよびウィトビー襲撃

スカーバラ、ハートルプールおよびウィットビー襲撃事件の詳細解説

1914年12月16日、第一次世界大戦下のイギリスにおいて、スカーバラ、ハートルプール、ウィットビーといった港湾都市がドイツ海軍によって攻撃されるという事件が発生しました。この攻撃は、多くの民間人に死傷者を出し、イギリス国民に大きな衝撃を与えました。本稿では、この襲撃事件の背景、経緯、そしてその後の影響について詳細に解説します。

背景

ドイツ海軍は、イギリス海軍の戦力を分散させ、小規模な部隊をおびき寄せて殲滅する機会を常に狙っていました。1914年11月にはヤーマス襲撃を試みましたが、成果は限定的でした。しかし、この作戦を通して、イギリス近海への迅速な襲撃が可能であることが実証されました。

ドイツ巡洋戦艦部隊司令のフランツ・フォン・ヒッパー少将は、上官であるフリードリヒ・フォン・インゲノール大将を説得し、皇帝ヴィルヘルム2世から今回の襲撃の許可を得ました。事前にUボートを派遣し、スカーバラとハートルプールの沿岸防備を偵察。その結果、沿岸の防備が手薄であること、機雷が敷設されていないこと、そしてイギリス海軍の巡洋戦艦2隻がフォークランド沖海戦に参加するために南米に派遣されている可能性が高いことが判明しました。

ヒッパーの艦隊は、巡洋戦艦「ザイトリッツ」「フォン・デア・タン」「モルトケ」「デアフリンガー」、装甲巡洋艦「ブリュッヒャー」、軽巡洋艦4隻、駆逐艦18隻という編成でした。インゲノール提督は、ヒッパー艦隊がより強力な敵部隊に遭遇した場合に備え、大洋艦隊から85隻の艦艇をドッガーバンク東方に配置しました。

イギリス側の諜報

当時のドイツ艦隊は、イギリス艦隊との交戦を極力避ける方針を取っていました。しかし、イギリス側には重要な情報がありました。それは、ドイツ海軍が使用する暗号書の写しを入手していたことです。イギリスの暗号解読班は、傍受したドイツ軍の電文を数時間以内に解読できる能力を持っていました。12月14日には、ドイツ巡洋戦艦部隊が出航準備中であることを示す情報を入手しました。

グランド・フリート司令官のジョン・ジェリコー大将は、デービッド・ビーティー中将率いる巡洋戦艦部隊と、ジョージ・ウォレンダー中将率いる戦艦部隊を派遣しました。また、ウィリアム・グッドイナフ代将率いる軽巡洋艦戦隊、レジナルド・ティリット代将率いる軽巡洋艦と駆逐艦、ロジャー・キーズ代将率いる潜水艦も出撃させ、ドイツ艦隊の迎撃態勢を整えました。

ジェリコーは、ドイツ艦隊の襲撃を容認し、その帰還中に捕捉する作戦を立てました。

襲撃の実行

ヒッパー艦隊は12月15日にヤーデ川を出航しました。しかし、駆逐艦「S-33」が艦隊からはぐれ、位置を打電したため、艦隊の存在が露見する可能性が生じました。また、ヒッパーはイギリス側の無線交信から、イギリス側が何らかの事態を察知している可能性を感じていました。悪天候も作戦の障害となりました。

12月16日午前8時、「デアフリンガー」と「フォン・デア・タン」がスカーバラの市街地への砲撃を開始。スカーバラ城、グランド・ホテル、教会などが標的となりました。市民は駅や道路に殺到し、避難を試みました。午前9時30分に砲撃は終了し、2隻の巡洋戦艦はウィットビーへ移動。沿岸警備隊の施設やウィットビー修道院などが砲撃を受けました。

一方、「ザイトリッツ」「ブリュッヒャー」「モルトケ」はハートルプールを攻撃しました。ハートルプールにはドックや工場があり、3門の6インチ砲で防備されていました。ダーラム軽歩兵連隊の守備隊は、午前4時30分に襲撃の可能性を警告され、実弾を受領しました。午前8時10分に市街地への砲撃が開始されました。

陸上の砲台は、敵艦からの至近距離からの砲撃に苦戦しました。砲台の砲兵は、敵艦のマストや索具を標的に砲撃を行いました。軽巡洋艦「パトロール」は出航を試みましたが、被弾し座礁しました。ハートルプールの襲撃では、民間人86名が死亡、424名が負傷しました。また、軍人7名が戦死、14名が負傷しました。ドイツ側では水兵8名が戦死、12名が負傷しました。午前8時50分、ドイツ艦隊はハートルプールを去りました。

大洋艦隊との遭遇

ウォレンダー率いる戦艦部隊とビーティー率いる巡洋戦艦部隊は、それぞれスカパ・フローとクロマーティーを出発し、合流しました。12月16日午前5時15分、駆逐艦「リンクス」がドイツ海軍の駆逐艦と遭遇し、戦闘が発生しました。雷撃の情報は大洋艦隊司令のインゲノール提督に伝えられました。インゲノール提督は、艦隊を危険に晒してはいけないという命令を尊重し、ドイツへの帰路につきました。もし作戦を継続していれば、イギリスの巡洋戦艦4隻と戦艦6隻を、指揮下の戦艦22隻を含む戦力で迎撃できた可能性がありました。

ヒッパーの帰還

12月16日午前9時30分、ヒッパー艦隊は再合流し、母港へ向かいました。ヒッパーは、大洋艦隊がすでに帰港していることを知りました。ビーティーとウォレンダーは、ヒッパー艦隊を捕捉するため別々に進路を取りました。11時25分、軽巡洋艦「サウサンプトン」が敵艦を視認し、交戦を開始しました。しかし、信号の混乱により、イギリス軽巡洋艦は敵との交戦をやめ、ビーティーの元に戻りました。12時15分、ドイツの巡洋艦と駆逐艦は、機雷原の南限で戦艦を発見しました。しかし、視界が悪く、戦艦の全てが敵艦を視認したわけではありませんでした。ドイツ艦は再び霧の中へ消え、ヒッパーは脱出に成功しました。

襲撃の影響

この襲撃は、イギリスの世論に大きな影響を与えました。民間人を攻撃したドイツへの非難と、それを阻止できなかったイギリス海軍への批判が噴出しました。この事件は、イギリスの宣伝キャンペーン「スカーバラを忘れるな」の一環として利用され、陸軍の募兵用ポスターに使用されました。

まとめ

スカーバラ、ハートルプールおよびウィットビー襲撃事件は、第一次世界大戦におけるドイツ海軍の作戦の一つであり、イギリス国民に大きな衝撃を与えました。この事件は、その後の戦況や世論に大きな影響を与え、歴史に深く刻まれることとなりました。

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